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長崎県大村市の郷土料理「大村ずし」。戦国時代、戦に敗れ領地を追われていた大村純伊が自領を奪還したことを祝い、領民たちがあり合わせの食材で作った押しずしが起源とされています。
兵士たちに分け与えるために脇差で四角に切ったことから「角ずし」とも呼ばれる大村ずし。そんな500年の歴史を伝える伝統の味を100年以上にわたり守り続けているのが「元祖大村角ずし やまと」です。
そんな「やまと」を切り盛りしているのが37歳で代表を務める永田隆利さん。郷土料理の老舗に1人息子として生を受けた永田さんが職人として家業を継ぐと決めた理由はなんだったのか。老舗料理店の跡取りだからこそ感じた悩みや期待への反発、そして決意。若き5代目の半生を紐解いていきたいと思います。
永田さん:25歳の頃ですね。実は、それまでは家業を継ぐつもりはなかったんです。高校卒業した後は東京の大学に入って、そのまま向こうでサラリーマンをやっていました。
永田さん:私は姉2人、妹1人の4人きょうだい。男が自分だけだったこともあり、3代目だった祖母から「あなたはやまとを継ぐために生まれてきたのよ」みたいなことを小さい頃から言われ続けていました。だから子どもながらプレッシャーはありましたし、「僕の人生を決めないで!」という反発心も大きくなっていったんです。
永田さん:振り返ってみれば、反発心から中学・高校・大学とみんなが進路や将来のビジョンを考える時期に「家業を継ぐかどうか」ということに向き合わずにいました。でも、サラリーマンとして働くようになって、反発してまで自分はやりたいことがあるんだろうか、と考えるようになったんです。
永田さん:勤務していた会社の待遇は良かったですし環境にも恵まれていたのですが、どこか煮え切らない想いがずっとあるような感覚でした。今の仕事は誰でもできるけど、老舗の郷土料理店の1人息子として5代目になるということは自分にしかできない。そんな風に思うようになりました。
永田さん:実は、家業を継ぐのが嫌だった理由の1つが“休み”。サラリーマン時代よりもプライベートな時間が減ると考えていたんです。でも、実際にやってみたら休み自体は少ない代わりに自分のペースで働けるので心身の調子がいい。自分の適正のようなものに私もびっくりしましたね。
永田さん:父から代表を譲り受けたのは31歳の時。従業員を抱えながらやっていけるのか・・・という不安もありましたが、周りのサポートもあって充実した毎日を過ごせています。これからもやまとの大村ずしの味を守り続けて、次の世代に良い形でバトンタッチできるよう努力していきたいと思いますね。
「老舗の跡取りとしてのプレッシャーとサラリーマンとして働くことの大変さの両方を経験できたことは自分にとって大きな財産。実は来月、第一子が生まれるのですが、子どもには6代目になることのメリット・デメリットをしっかり伝えて、自分で道を決めてほしいなと考えています」
まぁ、継いでもらえたら嬉しいですけど・・・と笑う永田さんの表情からは、愛しい我が子の将来を想像する父親としての想いが伝わってきます。
実家は明治時代に創業した老舗郷土料理店。販売しているのは戦国時代が起源の500年の歴史を持つ大村ずし。それらの伝統を重んじ、守り続けてきたやまとの先人たちの後を継ぐという決意はどれほどのものだったのか。優しく微笑む永田さんの姿に、一本心の通った心の強さを感じました。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県大村市本町474-5 ( Google MAP )
営業時間:
食事10:00~20:00/持ち帰り8:00~20:00(火曜、第2・4水曜定休)
TEL: 0957-52-3546