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東に多良岳、西に大村湾と豊かな自然に囲まれた長崎県央の都市・大村。肥前国大村藩の城下町として古い歴史を持つこのまちで500年の前から伝わる伝統料理の味を守ってきたのが郷土料理の老舗「大村角ずしやまと」です。
「大村市民にとって祝いの席やおもてなしの際に出すのが大村ずし。なので、盆と正月が1年で一番忙しい時期ですね」と話すのは、やまと5代目の永田隆利さん。今回は大村市民にとってのソウルフード・大村ずしを明治時代から提供している「大村角ずしやまと」の歴史と創業当時から変わらない味についてお話を伺いました。
永田さん:当時は店の前が川からの荷下ろし場になっていて、たくさんの船が行き来していたそうです。そこで働く人たちの食事処としてスタートしたのが「やまと」。当時は永田屋という名前の大衆食堂でおにぎりや丼もの、うどんなどを出していました。
永田さん:そうなんです。地元の方々にとって大村ずしはお祝いの日や来客のもてなしにふるまわれる身近な家庭料理。それをいつでも食べられるようにとメニューとして考案して出したところ、だんだんと評価されていき、現在のような大村ずしに特化した郷土料理店になっていきました。
永田さん:うちは創業から変わらない味と製法を守り続けています。具材は創業から継ぎ足して使っている秘伝のタレで味付けしたゴボウ・しいたけ・かんぴょうに奈良漬けとハンペン。門外不出のレシピで作られたシャリは酸味と甘味のバランスが良い味わいになっています。
永田さん:これはシュガーロードとして日本遺産に認定された長崎街道の影響が大きいんです。江戸時代、長崎の出島から佐賀を通って福岡・小倉を結ぶ長崎街道沿いの地域はスペインやポルトガルから入ってきた砂糖や菓子が伝わりました。この伝来により各地で食の砂糖文化が生まれ、大村ずしも砂糖をふんだんに使った甘い味付けになったと言われています。
永田さん:まず、特注サイズのヒノキ製もろぶた(浅めの長方形の箱)にシャリを敷き詰めます。その上にゴボウを並べてさらにシャリを乗せる。そこにシイタケやハンペン・奈良漬けなどの具材を散らし、最後に特殊な機械で焼き上げた錦糸卵を広げます。最後にふたでしっかりと押し固め、5cm角に切り分けて完成です。
永田さん:ありがとうございます。長崎空港内の売店でも角ずしを販売していて1日平均60人前くらい、お盆や年末年始になると200~300人前くらいお買い求めいただいています。
永田さん:実はうちの角ずしは賞味期限が当日中なんですよ。だから、空港の売店に納品する分は1年365日、遅くとも朝5時から仕込んで7時には納品しています。人に話すと「大変だね」と言われますが、私にとっては日常の一部。ほのぼのとあたたかい郷土料理をたくさんの方に味わっていただければ嬉しいです。
昔は大村の女性にとって大村ずしの調理器具が花嫁道具の1つだったそうで、たくさんの人が集まる祝いの席の料理として広く浸透していたことが伺えます。
「大村ずしは郷土料理だけでなく家庭料理という側面もあるので、各家庭で具材や味付けが違うんです。最近ではご自宅で大村ずしを作る、というシーンが減ってきていると聞いていますので、大村の歴史や文化から生まれた伝統の味をこれからも守っていくことがこの店の使命と感じています」
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県大村市本町474-5 ( Google MAP )
営業時間:
食事10:00~20:00/持ち帰り8:00~20:00(火曜、第2・4水曜定休)
TEL: 0957-52-3546