閉じる
皆さんは「諫美豚(かんびとん)」という長崎のブランド豚をご存知でしょうか。自然豊かな諫早平野で栽培された食用米と多良岳水系の地下水で大切に育てられた諫美豚は上品な脂とジューシーな味わいが特徴。有名料理店のコースに使用されるなど、その美味しさは高い評価を受けています。
そんな諫美豚の生みの親が「株式会社土井農場」代表の土井賢一郎さん(57歳)。豚のエサとなるお米の自社栽培、豚の健康を考えた飼育環境、豚の堆肥を使った土づくり・・・と、日本の伝統的な農法を取り入れることで年間1,000頭しか出荷できない貴重なブランド肉「諫美豚」という新たな名物を育て上げました。
今回は土井代表が農業を始めることになったきっかけや土井農場が目指す資源循環型農業、そして諫美豚誕生までの軌跡をお伺いしていきたいと思います。
土井さん:両親が農業をしていたというのが大きいですね。私を育てるために情熱を注ぎながら農作物を育てる姿を見て、子ども心ながら「自分も農業関係の仕事をしてみたい」と思うようになりました。
土井さん:当時から食料自給率の低さは日本の課題の1つ。バイオテクノロジーなど大学で様々なことを学ぶ中で、日本のアキレス腱である食糧の供給体制に取り組むことが私の使命だと感じました。卒業後は熱い想いを持って諫早へ帰郷。両親の跡を継ぎ、平成3年に農家としてスタートを切りました。
土井さん:父から「農業は儲からんぞ?」とアドバイスをもらっていたのですが本当にその通り。なかなか思うように経営がいかず気が付けば20年近く経っていたんです。どうすれば消費者が喜ぶ農作物を育てることができるのか。悩みに悩んだ末に出した結論が“日本の伝統的農業への回帰”でした。
土井さん:日本の農業の歴史を紐解くと見えてきたのが「資源循環型農業」。簡単に言えば、全てのものを資源としてとらえ人間の手でスムーズな循環を促すことにより、自然環境を守りながら安全安心で美味しい本物の農作物を生産する農業です。ウチは米と養豚をやっていたので、このふたつで循環構築してみようと考えました。
土井さん:まず、諫美豚の餌になる米は減反部分の水田で栽培。収穫後の藁やもみ殻は家畜の餌や敷きわらにします。また、豚舎から出る堆肥も水田の土づくりに活用。化学肥料を使わずに手間ひまかけて作付けすることで美味しい循環農法米が育つんですよ。
土井さん:元々、配合飼料を与えていたのですが、人間がおいしいと感じる米なら豚に食べさせてもいいんじゃないかと試しに混ぜてみたんです。そしたら丸々と太って、明らかに違うんですよ。食べてみると甘味・旨味が強く、脂はすっきり、そして臭みがない。本当に驚きました。
土井さん:人間用の米で豚を育て始めたのが平成20年で、そこから3年くらいは試行錯誤の連続。例えば、米の品種によって味が変わるかの実験では一番おいしく育ったのが「にこまる」でした。そういったブラッシュアップを経て平成25年に「諫美豚」を商標登録。土井農場も法人化することになりました。
土井さん:農家だけやっていた時よりもやることは増えましたが、安心安全な食材をお届けするには生産直売が一番。米も豚も販売もウチの理念に共感してくれたスタッフが頑張ってくれているので本当にありがたいですね。これからも諫美豚を通じて資源循環型農業の魅力を伝えていければと思います。
「日本の伝統的な農業に取り組むことで自然の流れに沿うほど美味しいものができるというとても大切なことに気づくことができました」と振り返る土井代表。事業に軌道に乗ってきた今だからこそ、資源循環型農業での地域貢献に力を入れていきたいと話します。
「私が諫美豚をやっている大きな理由は地域を守り食料を守ること。食糧を生産する私たち一次産業従事者の経営安定は地域全体の安定につながると思うんです。しっかりと事業を継続・拡大させ、少しでも多くの土を耕して一粒でも多くの種をまく。そうして自給率を上げていくことが私たちの最大の目標ですね」
農業に携わって約40年。未来を見据えながら語る代表の瞳には、若い頃と変わらない農業への情熱が灯っているようでした。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県諫早市高城町8-10 ( Google MAP )
営業時間:
10:00~17:00(定休/日・祝)
TEL: 0957-22-2983