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100円台というリーズナブルな値段ながら、しっかりした食べ応えと甘さ控えめのおいしさで長崎県・福岡県を中心に愛されている「パオクレープミルク」。ショッピングセンターに入った専門店はもちろん、九州各県のスーパーでも購入することができる“正方形のクレープ”として有名ですが、そのルーツが長崎県の島原半島にあるのはご存知でしょうか。
「両親は雲仙市内にあるショッピングセンターで婦人服店を営んでいました。私が中学生の頃に隣のテナントが空いたので小さな喫茶店をやることにしたんです。その店のメニューの1つとして提供したのが、生地を四角に折りたたんだ手作りの100円クレープでした」
そう教えてくれたのは株式会社MILK&レシェンテの代表を務める綱田晴樹さん。長崎県内で唯一の専門店であり工場を兼ね備えた「パオクレープミルク長崎店」を運営しています。そんな綱田さんに“長崎生まれ福岡育ちの手土産スイーツ”の歴史についてお話を伺いました。
綱田さん:料理好きな母が作っていた手包みクレープのレシピを基にしたそうです。生地はもちろんコンロで手作り。その上にクリームと具材を乗せて1つ1つ手で包んでいたのであまり数はなかったのですが、100円という価格もあり店に並べたらすぐなくなっていましたね。
綱田さん:ショッピングセンターとのテナント契約が満了を迎えたことで、両親はロードサイドに店舗を構えることを決めました。とはいっても、メインは洋服屋。手作りのクレープはあくまでも婦人服レシェンテの副次的な商品だったんですよ。
綱田さん:実は私、洋服からクレープへと業態が変化している時期ってあんまり関わってないんですよ。料理人になりたくて高校卒業後から10年くらい東京や横浜の和食料理店で勤務。家業に関わるつもりはなかったのですが、両親や弟から手伝ってほしいという要請があって2011年頃に戻ってきました。
綱田さん:2008年、父の設計案を基に製造機械を作った弟がのれん分けのような形で独立し、福岡に工場を作ったんです。商圏の大きい福岡での事業展開で弟の会社は急成長。小さな喫茶店から始まったクレープが百貨店や駅・ショッピングセンターに専門店を出店していて、浦島太郎のような気分でした。
綱田さん:まず店の裏手に工場を建設し製造工程をライン化しました。導入するシステムや機械は弟に相談しつつですね。販売スペースも「パオクレープミルクの専門店」を前面に押し出したおしゃれなデザインにして、お客様がくつろげるカウンターのカフェコーナー(イートインスペース)も設けました。
綱田さん:卸売りの走りは喫茶店時代にさかのぼります。テナントを出していたショッピングセンターから提案があり、2~3カ所の地域のスーパーに卸していたそう。ただ、当時は手作りでスタッフも居なかったため、数も1日に80~90個くらいと数にかなり限りがあったと聞いています。
綱田さん:本格的に卸売りに力を入れ出したのは私が帰ってきてから。生産力の高い福岡工場の商品が九州ほとんどの地域へ卸されている一方で、長崎店で製造した商品は専用トラックに乗せられ市内・近郊のスーパーへ。卸売業のエリアは小さいかもしれませんが、注文が入るたびにウチのクレープを楽しみにしてくれる人がいるんだという嬉しい気持ちになりますね。
「私にとってこの形のクレープは昔からある当たり前のもの。喫茶店時代は学校帰りに寄って自分で勝手に作っておやつ代わりに食べていたこともあるんですよ」と笑う綱田代表。一般的には派手でお洒落なイメージのあるクレープが綱田家にとっては特別ではない普通のおやつだったからこそ、食べ応えのあるリーズナブルなスイーツとして福岡で支持を獲得していったのかもしれません。
「福岡から観光に来た人には『長崎にも専門店あるんですね』と驚かれますし、この辺りの人が福岡に行くと『あっちに店ばだしとるとね』と言われます。よく「長崎生まれ、福岡育ち」なんて表現されますが、どちらが本家なんてことは意識していません。弟の会社と連携を取りながら、どの地域に住むお客様にも美味しい手包みクレープを届けることが私たちの使命だと感じています」
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県雲仙市国見町神代己315-1 ( Google MAP )
営業時間:
9:00~19:00
TEL: 095-778-1315