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180年を越える歴史を持ち、長崎県央エリア唯一の酒造である「株式会社杵の川」。地元・諫早で生産された酒造好適米「山田錦」を用いるなど、地域に根差した酒づくりを行っている老舗です。
今年(2023年)10月、そんな杵の川の敷地内にある古い瓶詰工場兼倉庫をリノベーションした新施設「蔵元ファクトリーきのかわよかよか」が誕生。開放的な空間には長崎の味を網羅した直売所や季節限定酒が味わえるバーカウンター、そして杵の川の歴史にちなんだ器具が展示されています。
「発酵観光」「観光酒蔵」をキーワードに生まれた蔵元ファクトリーきのかわよかよか。創業天保10年(1939年)という長い歴史のある酒造による令和の観光プロジェクトとは一体何なのか。杵の川の社長室室長・蔵の中のデザイナーである江口正和さんにお話をお聞きしました。
江口さん:ありがとうございます。グランドオープンは日本酒の日にちなんで10月1日。当日は10時オープンにもかかわらず早くからたくさんのお客様にご来場いただきました。鏡割りの時には掛け声と応援もあって、「杵の川はこんなに愛していただけているんだ」と感謝の気持ちでいっぱいになりましたね。
江口さん:移転前の直売所のお客様はシニア層の方が多かったのですが、今はお子様連れのファミリーや若いカップルのお客様もいらっしゃっています。先日もバーカウンターでお父さんはお酒、お母さんは甘酒、お子さんたちは甘酒のジェラートを召し上がっているというほほえましい一幕がありました。
江口さん:180年の歴史ある酒造として地域に貢献できることは何か。そう考えた時にたどり着いたのが「観光」であり、その構想の軸として位置づけられたのが「蔵元ファクトリーきのかわよかよか」でした。50年前に建てられた工場・倉庫をリノベーションすることで古さと新しさを融合させつつ、みんながほっこりとできて楽しい場所にすることを意識しました。
江口さん:きのかわよかよかには2つの観光的役割を持たせています。1つは県内外の方が「いってみたい」と訪れること。そしてもう1つは、諫早市はもちろん、近隣の大村市や島原半島の観光情報を発信していく基地となることです。地元のさまざまなお店や施設、観光スポットと連携することで、長崎県央・島原エリアの活性化に寄与したいと考えています。
江口さん:そもそも日本酒は米・麹・水を原料としてアルコール発酵させたもの。つまり、味噌や醤油、納豆と同じ発酵食品なんです。ただ、酒づくりに携わっている私たちも発酵食品を作っているという認識はほとんどなかった。だからこそ、健康志向の現代は体に良い発酵食品であることをPRしていくことが杵の川のブランド力向上に繋がると思ったんです。
江口さん:今はプロジェクトの第一段階。今後は酒造の歴史や土師野尾地区の自然を活かしたアクティビティを企画していきたいと考えています。例えば、夜の貸切営業を行ってバーカウンターでお酒を提供したり、スタッフのアテンドで工場見学をしたり・・・。私たちにとって普段の仕事風景でもお客様にとっては非日常。そういう部分を見ていただく価値はあるのかなと。
江口さん:そうですね。イチオシは施設内には長崎県で1人と言われている酒樽職人さんの作業場を再現したスペース。作りかけの樽やかんなくずの存在感はすごく魅力的ですし、タイミングが合えば実際に作業している姿もご覧いただけます。将来的には観光バスとマッチングして酒蔵見学ツアーのような形で多くのお客様をお迎えできたら嬉しいですね。
構想から約1年かけてオープンした「蔵元ファクトリーきのかわよかよか」。リノベーション時にはスタッフから「もっときれいに作り変えた方がいいのでは」という意見も出たそうですが、敢えて古い部分をテクスチャーとして残すことで温故知新を感じる空間が誕生しました。
「施設内に事務所機能も移転したことで、各部署のコミュニケーションがより円滑になったと感じています。また、スタッフがきのかわよかよかを訪れたお客様と直接触れ合うことができるのも大事な経験。これらのメリットを活かしつつ、観光酒蔵を着実に進めていきたいですね」と力強く話す江口さん。
次回は「蔵元ファクトリーきのかわよかよか」の直売所とバーエリアについて、江口さんにご案内いただきながらレポートしていきたいと思います。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県諫早市土師野尾町17番地4 ( Google MAP )
営業時間:
10時~18時
TEL: 0120-833-123