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暮しを楽しむの手帖
一魚一恵 表参道店#1 食のプロも認める八代の鮮魚商。30年の魚屋稼業を続ける代表の「美味しい魚を多くの人に届けたい」という熱い想い

熊本県八代市にある鮮魚のセレクトショップ「一魚一恵」。2018年の創業以来、プロが扱うような美味しい魚介類をリーズナブルな金額で購入できる、と着実にファンを増やし、今年(2024年)7月には市内中心街・松江城町に2号店となる表参道店をオープンしました。

すぐそばに八代宮に続く長い参道があり、どこか城下町の名残を感じるロケーション。店内に入ると「いらっしゃい!今日はデカか天然シマアジの入っとるよ!」と大きな声が響きます。

声の主は「鮮魚商一魚一恵」代表の小川貴史さん。店内に並ぶ新鮮な海の幸は小川さんの熟練の目利きで田崎市場から仕入れてきたもの。調理場では面倒な魚の下処理や美しい刺身の盛り合わせなどプロの包丁さばきを見せてくれます。

八代市内の多くの飲食店でも一魚一恵セレクトの魚が使われているように、料理人からの信頼も厚い小川代表。この道30年という小川さんが、どのようにして魚屋稼業に入り、独立して一魚一恵を立ち上げたのか。その半生に迫りたいと思います。

カウボーイを目指していた青年が運命に誘われるように進んだ魚屋の道

小川さんは魚屋として30年の経験をお持ちということですが、魚屋の仕事との出会いは何だったのでしょうか?

小川さん:高校生の時にスーパーの鮮魚部門でアルバイトしたのが魚屋仕事との出会いやね。包丁できれいに捌いた刺身を、いかに「美味しそう」と感じてもらえるかを考えながら盛り付けていく。器やパックの中に美味しい風景を描き出すアート性みたいな部分がすごく楽しくて。好きなことには全集中で打ち込める自分にとって「めっちゃ向いとるやん」と感じとったね。

やっぱり若い時は仕事に対する「好き」という感覚は大きいですよね。じゃあ、高校を卒業した後はすぐに鮮魚関連の仕事に就かれたんですか?

小川さん:いや、そいが違うとよ。魚屋の仕事は面白かったけど、本職にしようとは1ミリも思っとらんかった。なにせ当時の夢は「アメリカでカウボーイになること」やったけんね。

え、カウボーイ!?

小川さん:そう。だけん、高校卒業後は外国語専門学校に通ってカリフォルニアにホームステイもしたよ。そこはゴールドラッシュ時代にたくさんのカウボーイたちがアメリカ大陸を横断して開拓した街。「自分もここで夢を叶えるんだ!」と知り合ったカウボーイに熱意を伝えたっちゃけど「冬はほとんど仕事がない。相当な覚悟がない限りやめとけ」と諭されたとさね。

夢に向かってまっしぐらの行動力がすごい…。それでカウボーイの現実を目の当たりにしてどうしようと思われたんですか。

小川さん:悩みに悩んだ挙句、カウボーイの夢はあきらめたね。そいで日本に帰ってきて、何か仕事ばせんといかんなぁと考えた時に思い浮かんだのが魚屋やった。まぁ、そがんうまく求人はなかやろと思いよったら、知り合いから「貴史くん、仕事探しよるとならここはどがんね」と話があって。そいがスーパーの鮮魚部門。まるで“お前の道はこっちだよ”と呼ばれとるような運命的なものを感じたね。

師匠との出会いで花開いた魚屋人生。庶民派のスーパーからハイソな百貨店まで経験した小川さんが独立を決めた理由とは…?

スーパーの鮮魚部門から始まった小川さんの魚屋人生。そこから独立して2018年に一魚一恵を創業するまでの歩み、めちゃくちゃ気になります。

小川さん:まず帰国して最初に勤めたスーパーの鮮魚部門で、先生のような存在となる人との出会いがあった。包丁技術、売り場の見せ方、魚の目利き…。経理だ数字だなんてちんぷんかんぷんだった20代の若造に、魚屋として商品に値段をつける、ものを売ることの神髄をイチから叩き込んでくれた。そのおかげで魚屋という仕事の面白さにどっぷりとハマっていったっちゃんね。

初手から師匠と呼べる人との出会い…!?

小川さん:で、その人が独立する時に「一緒にこんや?」って誘われて。二つ返事でついていって2年くらい働いたら店長に抜擢されて、仕入れも任せてもらえるようになった。当時、僕は20代中盤。田崎市場(卸売市場)でベテランの仲買人に混ざって競りに参加する、自分で目利きして仕入れるという経験はすごく自信になったし、今でも大きな財産やと思っとるよ。

※Instagramより
その後、任された店舗を九州で売上ナンバーワンにするなど、若手エースとして手腕をいかんなく発揮。30代中盤には複数の店舗を統括する部門長を任されていた小川さんですが、その頃に大きな転機が訪れるんですよね。

小川さん:熊本市内唯一の百貨店から「鮮魚部門を担当してくれる人材を派遣してくれないか」という打診があったんですよ。ディスカウントストアの鮮魚部門が主戦場だった当時の会社にとって、高級志向の方が来店するデパ地下は未知のエリア。そがんところでやれるのは小川しかおらん、ということで百貨店に出向することになりました。

庶民派のスーパーとハイソな百貨店。これまでとは180度違う環境に身を置くことになったと。

小川さん:ディスカウントストアの仕入れが“お値打ちで良いもの”だとすると、百貨店は“市場の中で一番良いもの”。仕入れ値の天井ば設けんで妥協せずに本当に良かもんだけば目利きできるとは魚屋冥利に尽きる。最初はギャップに戸惑ったけど、よっしゃやるぞと自分の経験とスキルをフル活用。異例の売上前年比230%をたたき出した時はそれまでとは違った手ごたえを感じたよね。

そんな小川さんは2018年に独立して一魚一恵を創業なさいます。なぜ長年勤めた会社を辞めてまで自分の店を持とうと考えたのでしょうか。

小川さん:仕事は楽しかったけど、段々と数字を追うゲームのように感じるようになってしまってね。そん時に見たのが“子どもの魚離れ”のニュース。「いつか魚が売れんくなる日が来っかもしれん」という危機感が自分の中に芽生えたとですよ。本当に「美味い!」と思えるお魚を、もっとお手軽に、たくさん食べていただきたい…。そがん想いで鮮魚商として独立することば決めました。

※Instagramより

百貨店の仕入れで値段を気にせずに究極に良い魚を選んだ経験は目利きの幅を大きく広げてくれたと振り返る小川さん。日本の食卓から魚が消えつつある中で「ひとつひとつの魚、一人一人のお客様に向き合いたい」という信念から誕生した一魚一恵の店頭には、朝仕入れたばかりの新鮮な魚介類が並びます。

「30年の経験で培った熟練の目利きで、その日にオススメできる魚だけをセレクトする。最高品質のものを一番お値打ちな時に仕入れる。食のプロが扱うような魚をどんな家庭でも食べられるように創意工夫すっとが僕の役目。これからも八代の子どもたちに鮮魚の本当の美味しさば伝えていきたかね」

市場に納得できる魚がない時は臨時休業するほど、新鮮さや旨さにこだわりを持つ小川さん。次回の記事では、鮮魚のセレクトショップ・一魚一恵の開業から現在までの歴史に迫ってみたいと思います。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
一魚一恵表参道店

熊本県八代市松江城町3-22 幸福屋百貨店1F ( Google MAP

営業時間:

11:00~18:00(定休日:日曜日・祝日・時化)
※土曜日のみ19:00迄飲食可

TEL: 0957-56-8982

URL:https://kumaon.kumamoto.jp/product/ichigyo-ichie