キーワード検索

閉じる

暮しを楽しむの手帖
一魚一恵 表参道店#4 八代の皆さんに支えられたからこそ恩返しをしてきたい…!目指すは地元のモノと人が集まる庶民派デパート

江戸時代の歴史を感じる風情ある街並み、伝統を感じる祭りと情緒豊かな文化、戦国時代に発見された海辺の温泉、平家伝説が残る秘境の地…。城下町として発展し、現在は熊本県第2の都市として多くの人が暮らす熊本県八代市には魅力的なスポットがたくさんあります。

そんな八代市の市街地で営業しているのが「一魚一恵表参道店」。小さな魚屋ながら代表・小川貴史さんが熟練の目利きで仕入れる地元の鮮魚はどれも一級品。店内には手づくり総菜&弁当コーナーやイートインスペースも設けられており、まるで市場のような雰囲気です。

魚屋として約30年の経験を持つ小川さん。長年勤めあげた会社を退職し、2018年に鮮魚商一魚一恵を創業。質の高い魚とプロの技術が光る下処理&刺身盛りで徐々に人気を博し、今年(2024年)には念願の2号店をオープンしました。

創業から6年。改めて、小川さんにこれまでで印象深かった出来事を振り返っていただくとともに、この先の展開として思い描いている一魚一恵の未来図をインタビューしていきます。

八代の海のポテンシャルを感じた開店初日。魚の美味しさを伝える宣教師として今も走り続けています

今年(2024年)、ご自身の大きな目標であった“新しい魚屋のカタチ”を実現した表参道店をオープンなさいました。改めて30年の魚屋生活を振り返って、どのように感じていらっしゃいますか?

小川さん:そうやね…。若い頃はとにかく早く上達しようと、とにかくがむしゃら。スーパーから百貨店までいろんな店で試行錯誤ば重ねて、成功も失敗もしたね。調子に乗って打ちのめされたこともあったけど、すべてが良か経験。いつか八代で独立することば夢見ながらひたすらに頑張ってきたかな。

長年の研鑽の甲斐あって、故郷で魚屋ができるチャンスに恵まれました。実際に2018年に独立して一魚一恵を開業した時のお気持ちを教えてください。

小川さん:地元の海の幸と八代の皆さんをつなぐ魚屋になりたい!というのが一番やったね。開店初日は不安も大きかったけど、地域の方々がたくさん買いに来てくれてすごくありがたかった。あと、八代の漁師さんが持ってきてくれたガンゾウカレイ。あいば見て、改めて八代の海のポテンシャルば感じて、魚の美味しさを全国に発信する宣教師をめざそうと心に決めたね。

インバウンドで八代に来た外国人旅行客も多く足を運んでいらっしゃるそうですね。

小川さん:意外かもしれんけど、日本人より外国人の方が“購入した鮮魚をその場で調理してもらって食べる”ということに慣れとっとですよね。店頭の商品を指さして「この魚を買うから刺身と天ぷらにしてくれ」みたいな。多分、海外は市場でそういう食べ方ばするところが多かとでしょう。この感覚を市民の皆さんにも広げていって“魚の角打ち”みたいな店にしていけたら面白かですね。

鮮魚商一魚一恵としては約6年、営業を続けてこられました。これまでに印象に残っている出来事があれば教えてください。

小川さん:先日、表参道店のオープンに伴って3年ほど入らせてもらっとったフレッシュみずもとの鮮魚コーナーを閉店したとさね。スーパーのテナントやけど、試行錯誤しながら朝仕入れた魚を売るという一魚一恵のスタイルを貫いた経験はとても勉強になった。みずもとのお客さんは本当に良か人ばっかりで表参道店にもしょっちゅう来てくださるので、出会いって大切やなと感じました。

※Instagramより

ゆくゆくは地元生産者の野菜や工芸品も並べたい。地域貢献の一環として2階をイベントスペースとして活用することも検討中

では次に、一魚一恵の今後の展望を伺っていきたいと思います。

小川さん:ひとつは、鮮魚の本当の美味しさを家庭で手軽に味わえるようにお客さんに寄り添い続けること。「うまく下処理ができんし面倒…」とか「調理したことがないから美味しく作れるか不安…」といった親御さんの悩みば解決すっことで、子どもたちが魚介類を食べる機会が増える。プロの技術でばっちり下処理もするし、調理法や食べ方を教えることで魚が身近な食材になるとが大きな夢やね。

創業当時から掲げる信念はブレずに持ち続ける、と。ではもうひとつの未来予想図はどのようにお考えなのでしょうか。

小川さん:一魚一恵を“庶民派のデパート”に育ててくこと。有名料理店でも使うような質の高か魚ばリーズナブルに提供するとは大前提として、今やっとる刺身のお造りや手づくり総菜・弁当、飲食スペースでの食事に加えて、ゆくゆくは八代の生産者さんが栽培した農作物なんかも一緒に販売していけたらなと思ってます。

おお~。海の恵みと大地の恵み、両方が揃う生産者市場みたいな感じですね。

小川さん:実は、八代で新規就農する人は結構おらすとですよ。でも、新しく入ってくる人たちやけん、最初は釣り先が開拓されてないことがほとんど。そういった野菜を販売するスペースを設けたり、一燐で小鉢に使ったりして、たくさんの人に美味しさを知ってもらえれば新しい販路が開けていく。そういう食を通じた地域貢献をすっとも一魚一恵の役割なんじゃないかと。

ご自身が地元の皆さんに支えられた分、八代に恩返しをしたいという小川さんの想いが伝わってきます。

小川さん:そうやね。地域貢献で言えば、表参道店の2階はワンフロア空いているのでレンタルスペースとして活用するのもアリやなと思っとる。音楽ライブだったり、ミニマルシェだったり…。外国人観光客向けに地元で製作された伝統工芸品を展示販売するともよかね。いろんなイベントを通じて松江城町から八代を活性化していけたら最高。そいけん、これからもがんばらんばね。

「まあ、いうても本業はどこまで行っても魚屋やけん、これから先も魚だけは誰にも負けたくなかね」といたずらっぽい表情で話す小川代表。お客様が少しでも新鮮な刺身を味わえるように、と基本的に作り置きはしないという姿勢からも魚屋稼業30年の矜持を感じます。

取材を終え、ふとカウンターに目をやると大きく「夢」と書かれた色紙。なんでも知り合いの書道家の方がたくさんくださったもので、外国人客にプレゼントすると「タカラモノデス、ダイジニシマス」と興奮しながらカバンにしまうそう。

「日本人でも外国人でも喜んでくれるとこっちも嬉しくなるっさね」

どこまでも人に寄り添う小川さん。一魚一恵の“鮮魚の本当の美味しさを届けたい”という挑戦はこれからも続いていきます。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
一魚一恵表参道店

熊本県八代市松江城町3-22 幸福屋百貨店1F ( Google MAP

営業時間:

11:00~18:00(定休日:日曜日・祝日・時化)
※土曜日のみ19:00迄飲食可

TEL: 0957-56-8982

URL:https://kumaon.kumamoto.jp/product/ichigyo-ichie