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暮しを楽しむの手帖
お菓子のかわた#1 長崎のお菓子をもっと知ってもらいたい。諫早で70年続く菓子メーカーの若き3代目が描く夢。

多良岳と有明海に囲まれた自然豊かな諫早市高来町エリア。国道207号線沿いの住宅地や田畑が広がるのどかな場所に店舗兼工場を構えているのが、和菓子・生菓子・洋菓子の製造販売を行っている「お菓子のかわた」です。

長崎県内各所のスーパー等に手づくりのお菓子を卸している「お菓子のかわた」。そんな創業70年を越える諫早の名店の代表を務めているのが、3代目の川田行文さんです。

大学で食品経済学科を専攻した後、地元の同業者の元で修業を行い26歳で家業に入った川田さん。令和元年には社長に就任し、工場長を務める弟さんやお母様に支えられながら地域の方々から愛されてきた「お菓子のかわた」を切り盛りなさっています。そんな若い3代目の半生を振り返りながら、家業への想いを語っていただきました。

長崎から遠く離れた大学生活の中で強くなった“家業を継ぐ”という選択

川田さんが「お菓子のかわた」を継ごうと思ったのはいつくらいなのでしょうか?

川田さん:小学校高学年から中学生くらいだったと思います。小さい頃から遊びの延長線上で、お菓子を入れる箱折りをしたり荷物を運ぶのを手伝ったりしていたんですよ。自分が3人兄弟の長男ということもあり、自然と「自分が継ぐしかないんだろうな」と考えるようになりました。

高校卒業後は神奈川県の大学に進学なさいます。

川田さん:会社を継ぐのであれば大学へ行ってほしいという父の希望があったんです。じゃあ、食品関係の物流や生産に特化した経済学を学ぼうと食品経済学科を専攻しました。学生時代はその辺の大学生と一緒。勉強もそこそこに遊び、お酒、合コンに覚えたてのギャンブル・・・(笑)。でも、その経験で世界が一気に広がりましたね。

いろいろな社会経験ができるのも学生の特権。

川田さん:正直に言うと、大学で自分が本当にやりたいことが見つかったらそっちに進むのもいいんじゃないかとも思っていたんです。でも、そうはならなかった。その根底には祖父が創業し、父が作り上げてきた「お菓子のかわた」という会社への誇りがあったから。「かわたさんとこのお菓子はおいしい」と言ってくださる地域の方々のためにも絶やしたくないなと、3代目として継ぐことを決意しました。

大学生活がご自身を見つめなおす良い機会になったわけですね。

川田さん:もうひとつ学生時代の大きな経験があって。当たり前の話ですけど、神奈川の大学で「お菓子のかわた」って言っても誰も知らないんですよ。私は18年間、地元の会社の坊ちゃんとしてチヤホヤされてきたからそれが衝撃的で。それ以来、長崎以外の人たちにも「お菓子のかわた」のおいしさを伝えたい!と野望を持つようになったのも、大きなターニングポイントでした。

地域に愛されている「お菓子のかわた」を守り続けていくために

修業期間を経て、26歳で専務として「お菓子のかわた」に入ることになった川田さん。家業に関わるようになって感じたことを教えてください。

川田さん:やっぱり自分の力不足は痛感しましたね。大学で学び、他の会社で修行をしたと言っても所詮は社会経験の少ない20代。父からの経営指南のようなものもありませんでしたし、自分なりに「継ぐ」ということをいろいろと考えてみたんですけど、何から手を付ければよいのかすらわかりませんでした。

そんな中、お父様が他界されて28歳で社長に就任されます。

川田さん:変な話、祖父から父と70年続いてきた会社なので、私がいなくても事業はまわるんですよ。じゃあ、自分にできることはなんなのか。そう考えた時に浮かんできたのは地域の人たちから愛されているこの会社を守り続けていくことでした。そのためには「利益追求」と並んで「働き方改革」にも着手する必要があると考えたんです。

「お菓子のかわた」を支えている従業員の皆さんがずっと働きたいと思えるように環境や待遇を整えられたわけですね。

川田さん:従業員の中には私が小さい頃から働いている50~60代の方もいらっしゃいましたし、若輩者の私に要望を言いやすかったんでしょうね。意見や叱咤激励も含めさまざまな声が挙がってきました。私も現場で働くプレイヤーの一人として従業員の意見がわかる一方、経営者としての視点もありましたので折り合いをつけながら少しずつ進めてきました。

ご自身が先導してきたというよりは、従業員の声に応えてきたという感覚なのですね。

川田さん:利益だけを考えて経営改革をスパンスパンと進めてITを導入して人材もたくさん入れて・・・というのが理想なんでしょうけどね。ウチは小さな会社で資金力も小さいですし、私ひとりで何かを動かすにはパワーが足りない。だから「こうなったらみんなが楽だよな」という感覚で、ちょっとずつ自分の理想に近づけていくような感覚で経営に携わっています。

社長に就任して6年目を迎える川田さん。これまでの経験を通じて感じた社長の役割とは何か、と質問を投げかけると「社長は便利屋」という言葉が返ってきました。

「社長は全ての部門のトップでその責任を負います。ウチのような小さな会社でも営業・製造・経営・小売といろいろな面をしっかり見て、判断していく必要がある。加えて、何か新しいことをやろうという時は私が率先してアイデアを出して動いていく。それによって従業員たちがついてきてくれるのだと思います」

関東のスーパーなどに長崎・五島名物のかんころもちを卸しているほか、Instagramにも力を入れ、長崎県外のお客様へ積極的にPRを行っている川田社長。若き3代目の瞳には「長崎のお菓子をもっと知ってもらいたい」という夢への情熱が燃え上がっているようでした。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
お菓子のかわた

長崎県諫早市高来町下与170-25 ( Google MAP

営業時間:

9:00~18:00(月曜/ただし祝日の場合は営業)

TEL: 0120-322-414

URL:https://okashi-no-kawata.bsj.jp/