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暮しを楽しむの手帖
お菓子のかわた#4 お菓子には笑顔がついてくる。おいしさで人と人をつなぐ3代目が感じた地域の絆と会社の未来

創業70年の歴史を持つ諫早市高来町の菓子製造会社「お菓子のかわた」。2022年に直売店の火災という不慮の事故に見舞われながらも、地域の人々の声を受けて改装工事に着手し、翌2023年に和モダンな雰囲気の店舗へとリニューアルしました。

「幸い、工場や作業場に影響はなかったので卸売事業は継続できたのですが、店舗販売は休業せざるを得なかった。地域の皆さんにはすごく応援していただきましたし、贈答品や法事などの注文もかなりの数を店舗で受けていたので、できるだけ早く再オープンさせたいと思ったんです」

リニューアルというより復活したという感覚の方が近いですね、と話す川田行文社長。突如降りかかった試練を通して、30代の若き3代目は何を感じたのか。そして、長崎の菓子メーカーとしてこれからどのような未来を描いていくのか。川田さんにお聞きしていきます。

社会の一部となって街の発展に関わっていく。それが私の考える地域貢献のカタチ

直売店が再オープンして1年ほどが経過しました。お客様の反応はいかがでしょうか。

川田さん:おかげさまでたくさんのお客様に足を運んでいただきました。「待ってたよ」「綺麗になってよかった」といった労いの言葉をかけてくださったり、花を持ってきてくださったり。地元の方々に支えていただいて会社があることはもちろん、お菓子のかわたがこの地域に存在する意味を再認識する良い機会になったと感じています。

焼失した店舗部分を工場として拡張し別の場所に直営店を構えるという選択肢もあったと思うのですが、同じ場所での改装リニューアルに決めた理由はなんだったのでしょうか。

川田さん:店舗営業は30年ほど前から続けているので、この高来エリアの方々にとっては当たり前にある菓子店なんですよね。常連さんでなくても「国道沿いの川田さんのとこに行けば良かお菓子がある」と知ってくださっている。やっぱりそういった地域の皆さんに愛されているというのが、リニューアルをしようと考えた大きな理由ですね。

半世紀以上に渡ってお世話になってきた場所だからこそ、恩返しをしていきたいと思われたわけですね。

川田さん:私にとって企業の地域貢献とは社会の一部となって街の発展に関わっていくこと。地元の人たちを雇い、経営し、税金を納め、お客様と良い相互関係を築いていく。当たり前のことかもしれませんが、それがすごく大切だと感じているんです。

地域の外からやってきて売上が悪くなったら撤退する。こういったビジネスモデルへのアンチテーゼのようにも感じます。

川田さん:昔からあった“まちの商店”が閉店したり移転したりすると、寂しいとか残念だとか思ったりするじゃないですか。だから、地元の方はもちろん市外からも来ていただけるよう店内にオープンキッチンを作ったり、SNSに力を入れたり・・・。改装して終わり、ではなく、これからも地域に根差した会社経営を続けていきたいと考えています。

長崎の郷土菓子の魅力をもっとたくさんの人に伝えるために

商品の魅力を伝えるためにSNSに力をいれてらっしゃるということでしたが、具体的に工夫していることがあれば教えてください。

川田さん:ひとつはInstagramで菓子製造の様子を動画で紹介すること。例えば、長崎には「桃カステラ」というひな祭りの祝い菓子があるのですが、すり蜜を使って桃を表現する工程を投稿したところ、職人の流れるような手技にたくさんの反応をいただいたんです。

普段は見ることができない工場の中だからこそ、いろんな人に興味を持ってもらえる、と。

川田さん:その通りです。ひとつひとつ丁寧に手間をかけて作っているんだよ、といった私たちの想いも一緒に見ていただけているんじゃないかと思います。なので、動画がバッと伸びるとすごく嬉しいですし、もっともっと魅力を伝えられるように私たちもSNSスキルを鍛えていきたいところですね。

※画像はInstagramより
では最後に、これからの目標を教えてください。

川田さん:全国的にも菓子文化の歴史が古い長崎県。カステラの福砂屋さんや文明堂さんはその代表格ですし、諫早市内にも杉谷本舗さんや菓秀苑森長さんのような江戸時代から続く郷土菓子の会社があります。まずはそういった方々と肩を並べられるような会社になることが目標です。

ただ会社を大きくしたいということではなく、大勢の人に長崎の郷土菓子をもっと知ってほしい、という川田社長の熱意を感じます。

川田さん:もうひとつは“高来のお菓子屋さん”として長く地域に愛される会社になること。そのためにも、少しずつ「お菓子のかわた」の知名度を全国的に上げていき、私の子どもや孫の世代には長崎を代表するお菓子屋さんになっていけたら最高ですね。

会社の未来を脳裏に浮かべながら熱を帯びた声で語ってくださった川田さん。そんな彼に“お菓子とはどんな存在ですか?”と尋ねると「笑顔がついてくるもの」という答えが返ってきました。

「お菓子って食べると顔がほころびますし、作り手も『美味しい』と言ってもらったら嬉しくなる。手土産としてもらってもほとんどの人が喜ぶと思います。そういう意味でお菓子のまわりには笑顔があるなって。ちょっと大げさかもしれませんが、お菓子のかわたの商品が人と人をつなぐ道具になっていけたら嬉しいです」

28歳という若さで諫早の老舗菓子メーカーの3代目として家業を継いだ川田社長。右も左もわからない中でスタッフの力を借りながら経営を改善し、新型コロナウイルスの流行や火災による店舗休止などさまざまな困難に立ち向かってきた「お菓子のかわた」のこれからに注目していきたいですね。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
お菓子のかわた

長崎県諫早市高来町下与170-25 ( Google MAP

営業時間:

9:00~18:00(月曜/ただし祝日の場合は営業)

TEL: 0120-322-414

URL:https://okashi-no-kawata.bsj.jp/