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2024年6月、八代市田中西町に手打ちうどんの店が誕生しました。屋号は「肥後の明水亭」。讃岐うどんの本場である香川県の名店・明水亭で修業を積んだ蓑田達典さんが店主を務める肥後の明水亭は、素材を活かした優しい味わいが楽しめると注目を集めています。
高校卒業後は製造業に従事していたという蓑田さんですが、自分のやりたいことをもう一度見つめ直そうと22歳で一念発起して会社を退職。お酒が好きだからという理由で勤務した熊本市内のダイニングバーで先輩に料理を教えてもらううちに、そのおもしろさの虜になっていきました。
「自分の作った料理を美味しいと食べていただけるのがすごく嬉しくて。いつしか“店を持ちたい”と考えるようになりましたね」と笑う蓑田さん。店長として約5年ダイニングバーを任された彼が、なぜ次のステージとして本格手打ちうどんを選んだのか。その道のりをインタビューしていきたいと思います。
蓑田さん:夜のお店ってお客さんと一緒にお酒を飲むことも多くて、ちょっと体を壊してしまったんですよ。加えて、コロナも重なってしまって…。それで仕事を辞めて地元(葦北)に戻ってきたんですよね。「もう30代やし、これからどうしようか…」と悩んでいる時に、家業の写真館を営む兄から「手打ちうどん、最近人気らしいよ」と勧められたのが興味を持ったきっかけでした。
蓑田さん:やっぱり料理が好きなんで。ただ、最初はうどん屋をやろうとは1ミリも思っていなかった。たまたま叔父が手打ちうどん屋をやっていたので「ちょっと手打ちうどんでも覚えよっかな~」「水と塩と小麦だけでしょ?簡単じゃん」くらいの軽いノリだったんですよ。でも、叔父に教えてもらえばもらうほど手打ちうどんの奥深さにハマっていきましたね。
蓑田さん:実際に習い始めると熟練の職人である叔父が簡単そうに作る一方で、自分は習った通りに全然できなくて。それで私の料理人魂に火が着きましたね。小麦粉の種類、水の成分、温度、湿度…。明確な答えがないので、店舗によってレシピは千差万別。突き詰めようと思ったらキリがないんですよ。だからこそ「いつか理想の手打ちうどんを作りたい!」とかなり調べて研究を重ねました。
蓑田さん:1年くらい自宅でうどんを作り続けて、叔父からは「充分、店に出して通用する」というレベルまで腕を磨くことができました。ただ、どうしても自分の理想のうどんには程遠くて…。どうしたら良いか悩んでいると、兄から「香川で修業して本場を知るのもいいんじゃない?」と言われて。「じゃあ、行く!」と決めて一か月後には香川にいましたね。
蓑田さん:最大の理由は一番美味しかったから。素材を活かした優しい味で、まさに「自分の追い求めている理想のうどんはこれだ!」と衝撃を受けましたね。それと師匠は地元(香川)に戻ってきてうどん屋を始める前は、京都やパリなど第一線で活躍されてきた和の料理人ということもあって、うどん以外の料理も教わりたいと思ったのも理由のひとつです。
蓑田さん:師匠から「長く修行するよりも早く独立して経験を積んだ方が良い」と言われていたので、とにかく勉強の毎日でした。最初は天ぷらを任されたんですけど、小麦粉を使っているのですごく難しくて。生地の分量はとろみで判断、揚げ終わりのタイミングも音で判断と感覚の世界。最初は全然うまくいかなくて夢の中でも天ぷらを揚げていましたね。
蓑田さん:そうですね。基本的にわからないことは聞かないと教えてもらえない。うどんの打ち方も教えていただいたんですけど、体重のかけ方など細かいところは人によって違うから自分で試行錯誤しなさい、と言われましたね。なので、師匠のうどん打ち作業を録画させてもらって、それを何度も見返しながら練習していました。
蓑田さん:師匠ご夫婦は“感動するか否か”でメニューを考案していらっしゃるんですよ。飲食店として料理を提供する以上、美味しいのは当たり前。そこに感動があって初めてお客様を心の底から笑顔にできる。その信念をしっかりと引き継いで、私なりの感動を創り出せるように日々精進していきたいと思っています。
香川での修業を終えて地元に戻ってきてからも、甘めが好きな熊本県民の好みにあわせた出汁づくりなど約1年間を準備期間に費やした蓑田さん。自然素材をふんだんに使った無添加の出汁と打ちたて・切りたて・茹でたてのうどんを味わおうと多くの人が足を運ぶ人気店へ成長しました。
「これまで食べたうどんの中で一番美味しい、と言ってくださる方もいて本当に嬉しい。自分としては師匠のうどんに並び、越えていくことが大きな目標。これまで関わってくださったたくさんの方々に感謝し、その気持ちをお返しできるよう頑張っていきたいですね」
古くから日本人に愛されてきた“うどん”。身近な料理ながら10人の料理人がいたら10通りのうどんができると言われるほど、シンプルな材料から生み出される奥深さが大きな魅力です。だからこそ、自分にしか作れないうどんを追求したい。それが八代の若き職人のうどん道です。
取材・執筆/Komori Daigo
熊本県八代市田中西町10-13-1 ( Google MAP )
営業時間:
11:00~15:00(定休日:木曜日)