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江戸時代から海外との貿易港として栄えた長崎で明治20年に創業した「白水堂思案橋本店」。1世紀を超える時の中で、文明開化、戦争と原爆投下、戦後復興、高度経済成長…と近代長崎の変遷を見つめてきた老舗菓子店です。
2020年。歴史ある白水堂でも経験した事のない世界的な出来事が起こります。それが新型コロナウイルスの大流行。総務の楠本颯さんは「商店街の通りから地域の方も観光客の方もいなくなって、街全体の元気がなくなってしまったようでした」と2年近くにわたる自粛期間を振り返ります。
お菓子で元気を届けたい--。そんな想いで熟練の職人たちが作り上げた練り切りの「アマビエ」はメディアで取り上げられ、大きな反響を呼びました。先の見えないコロナ禍で白水堂は何を模索し、どう未来へ繋げようと考えたのか。その舞台裏に迫ります。
楠本さん:当時、コロナの暗いニュースが続く中で白水堂の社長は「少しでも早く収束してほしい」という想いを抱えていました。そんな時に、SNSでアマビエをモチーフにした様々なアートが話題に合っていることを知り「自分たちもやってみよう!」と、アマビエの和菓子製作を決めました。
楠本さん:社長の想いに職人たちも感じ入り、疫病終息の願いを込めた商品の開発は急ピッチで進行。驚くほどのスピードで販売までこぎつけました。熟練の職人が作り上げた練り切りアマビエは白あんをベースにライトブルーの体、ピンクの髪、黄色のくちばしが鮮やか。つぶらな瞳の可愛らしい見た目と上品な甘さで評判も上々でした。
楠本さん:自粛ムードのうつうつとした気分を少しでも晴らしたいという方が多かったのでしょう。メディアで紹介していただくと市内はもちろん、県外からも注文が入るなど想像以上の反響が。従来、和菓子商品は店頭販売のみだったのですが、和菓子のアマビエについては少しでも皆さんの心の支えになればということで、当店初の冷凍での発送対応もできるようにしましたね。
楠本さん:当社と同じように「コロナ禍の長崎を食から盛り上げていかんば!」と考えていた岩崎本舗さんとコラボレートしたのもこの頃。公式キャラクターの角煮まんじゅうちゃんを再現した和菓子を、名物・角煮まんじゅうと一緒に販売していただきました。コロナの影響は大きく大変な時期ではありましたが、白水堂が新たな一歩を踏み出す契機にもなったと感じています。
※アマビエの和菓子及び岩崎本舗の「長崎角煮まんじゅうと和菓子のセット」は販売終了しています。
楠本さん:そうですね。県外の人にとって長崎といえばカステラ。なので当店の店頭幕を見て「桃かすてらって何?」と暖簾をくぐられるお客様は多いです。長崎市民にとっては通常サイズをご覧になって、造形や大きさに驚かれることもしばしば。お土産に持ち帰りやすいオリジナル商品「こもも」を紹介すると、皆さん喜んでご購入くださっています。
楠本さん:中には当社自慢の「五三焼かすてら」をお求めになる方もいらっしゃるのですが、思案橋本店は予約販売のみ。その際は取り扱っているかすてらの種類が多い長崎駅のかもめ市場店を案内したり、食べやすい巻スティックタイプのかすてらを紹介したり…。季節の和菓子をお求めになることが多い地元の方を含め、お客様にご満足いただけるよう臨機応変に対応しています。
楠本さん:ひとつは季節をお届けすること。白水堂では四季折々のバリエーションにとんだ生菓子をご用意しているので、インスタを見るだけでも楽しんでいただけたらと思っています。それと今後の工夫なんですけど、画像を和モダンな感じで統一していきたいな、と。イベント情報などのお知らせ等はストーリーズに集約して、“写真で魅せるお菓子”のようなアカウントにするのが目標です。
楠本さん:はい。課題としては、SNSを見たお客様がWEB上で商品を購入しやすい導線を作ること。日本全国の方が見てくださっているわけですから、ストレスなくご購入やお問い合わせができることは重要なポイントだと考えています。顔の見えないオンラインだからこそ、より丁寧な対応を。これからもお客様のニーズにお応えできるよう精進していきたいと思います。
新型コロナの大流行という世界的危機を乗り越え、今も長崎から日本各地へ美味しい商品と元気をお届けしている白水堂。2022年には長崎駅構内に「長崎街道かもめ市場店」、2023年には「ゆめタウン夢彩都店」をオープンした白水堂のこれからの展望を楠本さんに伺うとこんな答えが返ってきました。
「直近の目標としてはオンラインショッピングの充実。ユーザーの皆様からいただいたご要望を基に新たな商品を開発してアイテム数を増やしていきたいですね。加えて、検討しているのが和菓子の冷凍販売。コロナ禍での経験を活かせるよう、冷凍しても品質の変わらない和菓子づくりに取り組んでいきたいと考えています」
長崎市内4つの店舗とオンラインショッピング、それぞれの特徴を活かしながら長崎市民、観光客、遠方にお住まいの方…と一人一人のニーズに寄り添う和菓子や土産物を作り続ける白水堂。温故知新の旗印のもと、2027年の創業140年に向かって着実に歩みを進めています。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県長崎市油屋町1-3 ( Google MAP )
営業時間:
9:30~18:00(和風喫茶志らみず11:00~17:00)
TEL: 095-826-0145