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島原半島の西側に位置し、海と夕日と湯けむりのまちと呼ばれる雲仙市小浜町。温泉宿が立ち並ぶメインストリートの裏手には、レンガが敷き詰められた散歩道が伸びており、歴史ある温泉郷の情緒を感じられる雰囲気が漂っています。
そんなレンガ通りの一角に店を構えるのが創業19年を迎えた「居酒屋仁」。オーナーの田中智さんが25歳の時に開業した同店は地場の魚介類と新鮮な串ものが看板メニュー。店内には旨い酒を酌み交わしながら賑やかに過ごす地元の人たちであふれ、温泉街の夜を彩っています。
生まれも育ちも小浜という田中オーナーは「お客さんのほとんどが地元の人たち。予約で席が埋まることも多くて本当にありがたいです」と目を細めます。今回の記事では小浜の人々に愛されてやまない居酒屋仁のルーツと魅力を紐解いていきたいと思います。
田中さん:母親が飲み屋をやってたんですよ。その影響で自分も子どもの頃からちょくちょく料理を作っていて。結構好きだなと思ったのが飲食に興味を持ったきっかけですね。高校を卒業した後は母の飲み屋を手伝ったり、自分で焼き肉屋をやったりしながら経験を積んで、25歳の時にこの店をオープンしました。
田中さん:いやいや、本当にたまたまが重なっただけですよ。最初の頃なんて勢いだけでやっていたようなもの。いわゆる若気の至りですよね。でも、開業前の改装を友人たちと一緒に全部自前でしたり、オープン直後のしんどい期間も地元の仲間たちが食べに来てくれたり…。そういう縁が約20年、この店を支えてくれているんだと思います。
田中さん:それはお客さんからもよく聞かれますよ。「大将の名前は仁っていうとかね?」って。ちょっと恥ずかしい話なんですけど、取っ掛かりは「書きやすいのがいいな」っていう理由。20代の私にとって人偏に漢字の二、たった四画の「仁」は魅力的だったんでしょうね。しばらくたった後に漢字の意味を調べてみたら「親しみ」「思いやり」と書いてあって、ちょっと胸をなでおろしました(笑)。
田中さん:この建物は二軒長屋でウチとスナックが入居していたんです。ただ、ちょっと手狭でせっかく来ていただいたお客さんをお断りすることもあって心苦しかった。そんな時、たまたま隣があいたので「じゃあ、隣も使っちゃおう」と3年ほど前に改修。厨房の壁の一部を崩して出入口にすることで、新スペースの広さを活かしつつ、スタッフの導線も確保しているんですよ。
田中さん:メインの方は5つの個室(テーブル席×2、座敷席×2、掘りごたつ×1)とカウンター。新スペースの方はカウンターと掘りごたつの個室が4つ。こちらは間仕切りを外せば最大18名まで入ることができます。あとは2階の大広間。30名入れるくらいの広さがあるので、宴会によく利用していただいています。
田中さん:やっぱり売上をお客さんに還元することですね。例えば、個室を作ってみたり、座りやすい椅子に変えてみたり、壁紙を流行りのものにしてみたり…。隣をつなげて新スペース作ったのもそのひとつ。お客さんには「またなんかしよっと?」とよく言われていますが、それによって皆さんがもっと過ごしやすい空間になっていけば嬉しいですね。
ほかの店舗にお邪魔した時に「こいよかね」と思うとついウチでもやりたくなっちゃうんですよ、と豪快に笑う田中さん。そんなオーナーの人柄に惹かれるように、居酒屋仁にはたくさんの人が集います。
「コロナの時は外出自粛やら感染対策やらで大変だったんですけど、助けてくれたのが顔なじみのお客さんたち。定期的に顔を出してくれたり、テイクアウトを注文してくれたりして本当にありがたかったですね」
偶然にも、コロナ禍前年に店舗を改修して個室を設けていたことが功を奏し、比較的早い段階から客足が戻ったという居酒屋仁。すべてはお客様のために。その“思いやり”の心は巡り巡って自分のもとへ。“親しみ”やすい温泉街の居酒屋は、今日も元気に営業しています。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県雲仙市小浜町北本町905−4 ( Google MAP )
営業時間:
17:30~24:00
TEL: 0957-74-4129