閉じる
街のあちこちに残る武家屋敷跡や玖島城跡など、中世以降の長崎の歴史・文化を感じることができる大村市。肥前大村藩二万七千石の城下町の風情が残る歴史の街で、市民が足しげく通う老舗の和食店があります。
それが「和風れすとらん浜田」。小売業として創業した濵田屋が戦後から営み始めたちゃんぽん屋をルーツに持つこの店で代表を務めているのが濵田宏久さん(40歳)です。
子どもの頃からぼんやりと「家業を継ぐ」という意識があったという濵田さん。小学生の頃に始めたバスケットボールに青春を捧げた濵田少年が料理人という進路を意識したのは高校2年生の時でした。
はじめは「勉強せんでも行ける道だから」と消極的な理由で選んだ料理人の道。さまざまな経験を積みながら腕を磨き、若干29歳で「京懐石美濃吉」の副料理長に就任しました。今回はそんな濵田代表の半生を紐解きながら“料理”の魅力について掘り下げていきたいと思います。
濵田さん:当時の飲食業界は厳しくて、朝7時半には厨房に入って早くても深夜1時過ぎまで仕事。胡麻豆腐を作る時はずっと火にかけながら練らなきゃいけなかったりと、駆け出しのころは「刑務所の方が楽なのでは…」と思うくらいしんどかったですね。
濵田さん:長男が生まれたタイミングで、高槻市(大阪)にある系列店に異動しました。というのも、妻の実家が大阪だったので子育てするには良いんじゃないかと考えたから。専門学校を卒業してから京都で2年半、大阪で2年半。合計で5年くらいいたのかな。で、24歳の時に「若いうちにもっと修業を積みたい」と思い、一家で東京へ移住しました。
濵田さん:東京には5年くらいいたのかな。アラサーに片足を突っ込み始めた頃、次男の妊娠が分かり、関西の店舗への配属願を提出。偶然にも阪急百貨店の阪急うめだ本店に新規出店の時期と重なり、「副料理長としてやってみないか」と声をかけていただきました。ギリギリ30歳になる前だったので“29歳の副料理長”が誕生。もし開店が遅れていたらその肩書は使えなかったですね(笑)。
濵田さん:もともと妻には「いつか家業を継ごうと思っている」という話はしていたんです。で、次男が就学するタイミングで妻から「いいかげん定住したい」と打診があって。「じゃあ帰るか」と。とはいえ副料理長という立場上、すぐに辞めるわけにはいかないので、先に妻が子どもたちを連れて移住。私は1年ほど時間をかけて引き継ぎしてから、郷里に戻ってきました。
濵田さん:修業時代からいろいろな経験をしてきた中で「事業の継承は先代が元気なうちにしなきゃいけない」という想いが私の中にあったんです。代表という対外的な顔が形式上変わったとしても、取引先やお客様に浸透していくには時間がかかる。父は今年72歳でバリバリ厨房に立っているんですけど、だからこそ今のうちに私がいろんな方との関係性を作っておきたかったんです。
濵田さん:まずはメニューの整理ですね。もともと、この店は120名収容の宴会場や会議室を備えた3階建てのレストランだったのですが、20年ほど前に父が経営のスリム化のために今の規模感へとリニューアル。ただ、居酒屋の多いメニューは変えないままやっていたんですよ。なので、お客様の注文導線と新生「和風れすとらん浜田」というブランドづくりを考慮してギュッと絞り込みました。
濵田さん:メインに据えたのは「浜田御膳」。当店自慢のうなぎにお造り、天ぷらがついた和風れすとらん浜田を味わい尽くせる看板メニューですね。秘伝のタレに漬け込んだ鰻、ハンバーグ定食などランチに食べやすいリーズナブルな定食など、お客様のニーズと老舗らしさ、そして安定供給のしやすさを考えながら今のお品書きへと落ち着きましたね。
濵田さん:お客様に季節を感じていただくこと。経営者として料理の安定供給に重きを置いているので、当店はメニューが年中ほぼ変わらない。その反面、料理人としてお皿の上に食べられないもの、いわゆる皆敷を極力置きたくない。だから野菜の飾り切りで季節感を演出しているんです。正月は鶴、秋は紅葉にトンボ…。まずは目で料理を味わっていただけたら嬉しいですね。
全国津々浦々の食材が集まる老舗料亭の副料理長から慣れ親しんだ大村の和風レストランへ。一大決心をして家業を継いだ濵田さんには、19歳でこの世界に足を踏み入れて腕を磨き続けてきたからこそ大切にしている信念があるといいます。
「料理って“理(ことわり)を料(はか)る”って書くじゃないですか。つまり、料理のすべての工程にはちゃんと理由がないとダメなんです。『このリンゴは丸かじりした方がウマい』という理由でお客さんに出すなら僕にとっては立派な料理。逆に、どんなにきれいに盛り付けられたリンゴでも何も考えずに切ったのであれば道理がないので料理じゃないと思っています」
料理の楽しみはどんな食材にでも価値を見出すことだと笑う濵田代表。京都・大阪・東京と大都市の店で磨き続けてきた技術でお客様に最高の一皿を。そんな想いを胸に、40歳の若き代表は今日も調理場で自慢の腕をふるっています。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県大村市東三城町7-1 ( Google MAP )
営業時間:
昼11:30~14:00、夜17:00~19:00(水曜定休)
TEL: 0957−53−2188