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長崎県雲仙市小浜町北本町
島原半島の西側に位置する海沿いの温泉街・小浜温泉。その裏路地にひっそりと佇む小さな食堂があります。朝と昼のみの営業ながら、地元の方にも旅行者にも少しずつ愛される存在になりつつある「すずめの食堂」。今年(2026年)3月にオープンしたこの店を夫婦ふたりで切り盛りしているのが、店主の坂元忠相さんです。
かつては大阪の専門商社で20年ほど営業として働いていたという坂元さん。商社マン時代から夫婦そろって全国の温泉地を巡る旅を続ける中で小浜温泉を訪問し、その魅力に強く惹かれたと言います。”異色の食堂店主”が、なぜこの土地を選び、飲食の道へと進んだのか。開業までの道のりをじっくり伺いました。

坂元さん:大学卒業後、大阪の専門商社に入社しまして、化粧品の原料を扱う部署で営業職を20年ほど続けていました。もともと食べることが好きだったのですが、商社時代は接待などでさまざまな美味しい料理に出会う機会も多く、プライベートでもミシュランに載っているお店を巡ったりしていたんですよ。それこそ、「食べることに命をかけている」というくらい興味がありましたね。
坂元さん:料理も好きだったんですよね。妻と結婚してから20年以上が経ちますが、食事だけはずっと自分が担当してきたくらい(笑)。あと、温泉も好きで商社に勤めている頃から妻とふたりで全国の温泉地を旅していました。大型連休にあわせて4泊5日ほどの旅程で全国の温泉地へ出向き、行った先々で地元の食材を買って自炊しながら過ごすというスタイルを続けていたんです。

坂元さん:そうですね。商社を2016年に退職し、少しゆっくりとした後に、2018年から昼は蕎麦屋、夜は割烹料理店というスタイルのお店で働き始めました。この頃には「いつか自分の店を持つんだ」という目標がありましたね。初めての飲食業界でしたが、料理の腕を磨くことができるのが本当に楽しくて。「もっと技術を上げたい」と精力的に仕事に取り組んでいました。ただ…
坂元さん:2020年から流行した新型コロナウイルスの影響で、残念ながらその店が閉店してしまったんです。そこで、今度は大量の仕込みを経験しようとホテルへ転職。ところが、大規模な分業と緻密な規格管理が徹底されていたため、経験の浅い私は洗い物などが中心の下積みでした。ただ、厳しい管理体制の中で、衛生管理の基礎をしっかり学べたことは大きな財産になっていますね。

坂元さん:実は、8年ほど前に温泉巡りの旅で小浜温泉へ来たことがあるんです。その時に橘湾から水揚げされる新鮮な魚介や雲仙岳の豊かな土壌で育った野菜や肉類など、食材の豊かさに驚きました。温泉街には大衆浴場からホテルの立ち寄り湯までさまざまな入浴施設がありますし、車で20分ほど山を登れば泉質の違う雲仙温泉がある。夫婦そろって「ここが理想の場所だ」と感じたんです。
坂元さん:妻も温泉が好きで、旅にもよく付き合ってくれていましたし、2人にとって自然な流れで決まった、という感じでしたね。小浜は海もきれいで、普段の買い物も海辺をドライブするような感覚で楽しめる。数えきれないほどの温泉地を巡ってきましたが、どの土地にも優劣はなく、たまたま自分たちには小浜がしっくりきた、それだけなのだと思っています。

坂元さん:それぞれが得意なことを役割分担する、ということですね。妻と出会ったのは商社時代で、私が営業、妻が経理・総務で働いていました。なので、私は調理と営業のスキルを活かして料理とコミュニケーションを担当、妻が配膳・接客・経理を担当してくれています。お互いが自然体でいられることが大事なんじゃないかなぁ、と思いますね。
坂元さん:私、すずめ愛好家なんです。厄を払って幸運を呼び込む縁起のいい鳥だとも言われていますし、小さいのによく食べる「大食漢」でもある。お客様にいっぱい食べて幸せになってほしいという思いもあり、「すずめ」を屋号につけることにしました。まだオープンしたばかりですが、何気ない一皿を美味しく食べてもらえるような店にしていきたいと思っています。

商社勤めから飲食業界への転身、10年におよぶ温泉巡りの旅、そして小浜への移住。坂元さんの歩みは、飽くなき“食への探求”の末にたどり着いた答えなのかもしれません。「ありがたいことにお客様がたくさん来てくださって、のんびりするのは当分先になりそうです」と笑いながら話す坂元さんの隣で、奥様が笑顔で開店の準備を進めています。
気負わず、飾らず、二人らしい空気感がそのまま店の雰囲気になっている。そんな温かさが伝わってくる小浜町の「すずめの食堂」。商社時代から少しずつ思い描いてきた夢を、遠回りをしながらも自分たちの手でかたちにした二人の姿は、これから店を訪れる人にもきっと伝わるはずです。
取材・執筆/Komori Daigo

長崎県雲仙市小浜町北本町905-22-4 ( Google MAP )
営業時間:
朝 8:00~10:00、昼11:30~14:30
※定休日/月・火及び第1・3水曜
TEL: 090-7705-0645