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2005年、「健康と長寿を願い、手作りと真心のおもてなし」をコンセプトに諫早市にオープンした「中華ダイニング杏てい」。中華料理人として腕を磨き続けてきたマスター・野田浩一さんが、“自分の店を持つ”という若い頃からの夢を叶えた瞬間でもありました。
それから今日まで、地産地消で旬の素材を活かした中華料理屋として地域の方々から愛されてきた杏てい。女将の文子さんに話を聞いてその歴史を紐解いてみると、家族や仲間へ感謝、そして、あきらめない気持ちの大切さを教えてくれるエピソードがありました。
文子さん:最初は私も大反対したんです。というのも、当時は私が病気を患っていて、子どもたちも小さく不安がたくさんありました。主人もそれはわかっていたのですが「年齢を考えるとこれが自分の店を持てる最後のチャンスだ」と感じていたようです。そんな主人の想いを聞いているうちに、「この人の夢が叶わないのはもったいないな」と思うようになりました。
文子さん:義理の父と母が最初は反対していたのですが、私たちの気持ちを伝えると「わかった。自分たちが反対しても意味がない。全力でサポートするから」と言ってくださったのが本当に嬉しかったです。主人も一生懸命でしたし、私も青果業での経験を店舗運営に活かすことができました。娘たちが「小さい頃はお父さん、お母さんが家にいた記憶があんまりない」と言うほど忙しい毎日でしたが、家族一丸となってここまでやってきました。支えてくださった皆さんには感謝しかありません。
文子さん:北国では春を告げる花ともいわれている杏は果実が甘いことで有名ですが、種も次葉に富み古くから喘息や咳の薬として用いられています。そんな「杏」にまつわる中国の故事があるんです。慈悲深い名医が患者からの治療費を受け取らずに「お礼の代わりに杏の苗を植えてほしい」と伝え、人々が感謝の気持ちで植えた杏の苗はやがて壮大な林となり、その実りが人々のために役立てられたという美しい物語。主人も私も「いつか自分たちが店を出すなら“杏”を入れたいよね」と思い描いていたものです。
文子さん:それともうひとつ、杏にまつわることで大事にしていることがあります。それはフランスでの杏の花言葉、「不屈の精神」です。
文子さん:杏ていがオープンしてから今日まで、嬉しいこと楽しいことだけでなく、大変な想いをしたこともありました。前の店舗で火事が起きた時には途方にくれましたが、当時の九州ガスのスタッフの皆さんや友人の方々が片づけを手伝ってくださったり、家族や仲間が励ましてくれたり・・・。あの時に助けてくださった方々への感謝は忘れないですね。その経験から地域貢献を考えるようになりました。
文子さん:本当の幸せって苦難や困難にぶつかって気づくものだと思うんです。いいことも悪いこともたくさんの経験があったからこそ、今の私たちがある。だからこそ、これからも人との縁を大事にしながら、笑顔になっていただけるおいしい料理を提供していきたいと思っています。
冬の寒さを越え、春には淡い紅色の美しい景色を楽しむ人たちが集まり、初夏には大地の恵みで人々を喜ばせる杏の木。困難を乗り越え、ご縁を大切にし、健康と地産地消にこだわった料理でを提供している「杏てい」。名は体を表すといいますが、これほどぴったりなお店はないのではないでしょうか。
生産者の想いを乗せて浩一さんが愛情をたっぷり込めて調理する杏ていの中華。一口食べれば、そのおいしさできっとあなたも笑顔になりますよ。
※取材・執筆/Komori Daigo
長崎県諫早市泉町25-32 ( Google MAP )
営業時間:
(昼)金・土12:00~14:30
(夜)水、木、金、土、日17:30 ~ 21:00
TEL: 0957-21-8155