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暮しを楽しむの手帖
小浜タウンホテル#1 温泉街の路地裏にあるビジネスホテル。仕事や観光の拠点としてはもちろん、全国のバイク乗りが集う場所としても人気です

橘湾に沈む夕日と湯けむりが幻想的な海辺の温泉街・雲仙市小浜町。105℃という高い源泉温度と豊富な湯量から“放熱量”日本一の温泉地として知られる小浜温泉のメインストリートには、たくさんのホテル・旅館が立ち並び、観光客で賑わっています。

そんなメインストリートの脇道を抜け、裏手にある城之下通りから延びる小道を進んだ先に佇んでいるのがビジネスホテル「小浜タウンホテル」。各部屋に玄関やミニキッチンが設置され、ワンルームマンションのような感覚で宿泊できるとビジネスマンや旅行客に人気のリーズナブルな宿泊施設です。

まだバブル景気の香りが残る平成7年、小さな旅館だった場所に建てられた「小浜タウンホテル」。支配人の田中雅臣さんへのインタビューでその歴史を紐解いてみると、時代とともに移り変わる観光ニーズの変遷を知ることができました。

きっかけは両親が購入した路地裏の小さな旅館。建物が完成したら「あとは頼む」と丸投げされて…!?

開業当初から小浜タウンホテルを切り盛りされてきた田中さん。支配人として働くきっかけはなんだったのでしょうか。

田中さん:私の地元は小浜なんですけど、高校を卒業してからは長崎市内のホテルで働いていたんです。で、23歳の時に両親から突然「戻ってきてくれんか」と話があって。当時はまだバブルでイケイケな時代ということもあり父が新しい事業をやろうと思ったみたいなんですけど、何を思ったのか、路地裏の小さな旅館を購入していたんですよ。

え、田中さんに相談する前に物件を買ってしまっていた!? ちなみに、お父様は宿泊業の経営経験は…。

田中さん:ないですね(笑)。小浜で居酒屋とスナックをやっていたので素人ではないんでしょうけど、それでも畑違いすぎるだろうと。で、買い取った旅館を見に行ったらどこもかしこもボロボロ。こりゃもう取り壊した方がいいだろうという話になり、「国道沿いの観光ホテルに比べて立地が劣る分、リーズナブルな価格帯で勝負しよう」とビジネスホテルを建てることになりました。

※Instagramより
それで新規事業を手伝うために、職を辞して地元に戻ってこられたと。

田中さん:自発的に、といよりは強引な両親に押し負けてという感じでしたけど(笑)。で、戻ってきたら建物の設計とかは父が勝手に設計士さんと詰めてしまっていて、ホテルが建ったら「じゃあ、あとはよろしく頼む」と。部屋にベッドも入っていなくて、建物以外は私が一から全部準備しました。何から何まで嘘やろと思いながら、とにかくやらなきゃと必死でしたね。

田中さんの巻き込まれ感がすごい。

田中さん:ただ、父に先見の明はあったんでしょうね。“部屋の玄関で靴を脱いで自分の家のように寛げる”と話題になり、徐々に利用が増加。私も長期滞在するビジネスマンや工事関係者向けにマンスリープランを用意するなど、さまざまなニーズに応えていくことでリピート率を向上させていきました。

※公式サイトより

IT革命元年に開業した小浜タウンホテル。ネットを駆使してリピーターを増やし、ビジネス・観光の拠点に

田中さんが支配人としてビジネスホテルに関わって30年。平成~令和へと時代が移り変わっていく中で、ニーズが変わったなと感じたことはありますか?

田中さん:やっぱり携帯電話の普及は大きかったよね。平成10年くらいにはほとんどの人が持ち、ネットで宿を選ぶようになった。すると、多種多様なユーザーのニーズが浮き彫りになり、ホテルに求められるものが細分化。当ホテルは観光地にあるビジネスホテルということで、旅費を抑えたい方や素泊まりで地元の店で食事を楽しみたいという方の利用が増えていきました。

ニーズが変わるというよりは、ネットで手軽に探せるようになった結果、自分の希望にマッチしたホテルを選びやすくなったと。

田中さん:あとはWEBサービスも充実していきましたよね。小浜タウンホテルは「旅の窓口(現・楽天トラベル)」に登録していたんですけど、理由はユーザーがgoogleマップのように宿までの経路を見ることができるから。以前は目の前に高い建物が建っていて場所がわかりづらく迷うお客様も多かった。それが携帯の画面を見るだけで到着できるんですから本当に画期的でした。

いわゆるIT革命が始まったとされるのが1995年。小浜タウンホテルの開業も同じ年なので、すごく良いタイミングで事業をスタートされたことになりますね。

田中さん:偶然ですけどネットのビッグウェーブに乗った感はありましたね。当時、旅の窓口に登録してからはビジネス目的の宿泊が驚くほど伸びて。東京や大阪といった都市部からのお客様からの予約が入るたびに、長崎の片田舎にいながら最先端の都会につながっているような不思議な感覚になりましたね。

田中さんは「これからはネット社会になるだろう」と予想し、長崎ではいち早くNTTのネット回線を導入したとお聞きしました。

田中さん:ビジネスで都市部から来ているお客様にとってネット環境は重要だと感じたんです。確か平成13年くらいだったかな。福岡から業者を呼んでケーブルの配管工事をしてもらいました。今は全室ネット回線の設置もちろん、館内Wi-Fiを完備。2022年にはコワーキングスペースを設けましたので、ビジネスや観光の拠点としてお使いいただければ幸いです。

※公式サイトより

ビジネスマンや観光客以外に、バイカーたちからも人気がある小浜タウンホテル。それもそのはず、田中支配人もハーレーとカワサキ、2台のオートバイを所有する生粋のバイク乗り。小浜タウンホテルの公式Instagramにもお客様が運転してきたバイクの写真が多く投稿されています。

「最近はSNSでバイク好きのコミュニティがあって、そこで仲良くなった人同士で当ホテルを目的地にツーリングする人たちも多いんですよ。先日いらっしゃった4人組は東京・茨城・大分と全員バラバラ。思い思いのルートでここに集合して飲みに行く、ツーリング+オフ会のような旅ですよね。本当にバイカーさんの楽しみ方は多様性があって面白いなと思っています」

30年前、父の無茶ぶりから始まった小浜タウンホテル。今でこそスタッフを雇っているものの、開業当初からしばらくはひとりで業務をこなしていた支配人。結婚してからは子どもを抱えながらベットメイキングをしたりと忙しい日々を駆け抜けてきました。

「やっぱりここがいいね」「また来ます」

そんなお客様からの感謝の言葉を胸に、小浜タウンホテルは今日も多くの人を迎え入れています。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
ビジネスホテル小浜タウンホテル

長崎県雲仙市小浜町北本町877-6 ( Google MAP

営業時間:

チェックイン15:00、チェックアウト10:00

TEL: 0957-74-3590

URL:https://www.townhotel.co.jp/