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暮しを楽しむの手帖
ゆやど雲仙新湯#1 若女将は元外資系キャリアウーマン。創業100年を越える老舗旅館に吹き込む新たな風

開湯から1300年以上の歴史を持つ雲仙温泉。島原半島の中心にそびえる雲仙岳の恵みから湧き出す豊富な温泉は古くから湯治の場として親しまれ、明治から昭和初期にかけては外国人の避暑地としても賑わいを見せました。

火山景観が作り出す美しい四季の移ろいから、昭和9年に日本最初の国立公園にも選ばれた島原・雲仙エリア。そんな湯けむりと歴史情緒が漂う温泉街で、明治41年の創業以来、敷地内に4本の源泉を持つ宿として、多くのお客様をお迎えしてきたのが「ゆやど雲仙新湯」です。

柔らかな湯、新鮮な食、そして緑に囲まれた客室を通じて自然を感じながら過ごすことができる「ゆやど雲仙新湯」。その特色や役割について4代目・若女将の豊田桐子さんにインタビュー。全4回の記事を通して老舗ホテルの魅力を探っていきたいと思います。

源泉は雲仙岳の恵みの象徴。だからこそ湯守として自然とお湯を大切にしていきたい

明治41年に創業した「ゆやど雲仙新湯」。1世紀以上の歴史あるホテルとして大切にしていることは何でしょうか。

豊田さん:ひとつは雲仙の自然を守り、活かしていくということ。雲仙温泉街は国立公園の中にありますから、外壁や屋根の色などクリアするべき基準が設けられています。雲仙を訪れる皆さんが楽しみになさっているのは雲仙の雄大な景観と豊かな温泉。だからこそレギュレーションを守るのはもちろん、雲仙の自然を存分に味わっていただけるような工夫を重ねていきたいと考えています。

なるほど。

豊田さん:そして、もうひとつは“お湯”ですね。ゆやど雲仙新湯は敷地内に4つの源泉が湧出していて、それぞれ色合いや濃度が異なるのが特徴。浴場ごとに違う源泉を使用しているので、入浴するお客様が最適な温度で温泉を楽しんでいただけるような湯守としての役割も含めて、代々、お湯は大切にしています。

確か、雲仙温泉って国立公園のお湯を保護するためにボーリングや汲み上げが禁止されているんですよね。

豊田さん:その通りです。自然に湧き上がる自噴泉だけを引き込んでいるので、天候・気候によって湯量や温度が変わります。特に影響が大きいのが自然災害。今は法面工事も完了していますが、台風の影響などにより裏山が土砂崩れを起こしたことが数回あり、そのたびに掘り起こしが必要になりました。自然の恵みと災害の怖さ。その両方を享受しながら営業を続けている感じですね。

創業者から4代目となる若女将。老舗ホテルに生まれ育った中で印象に残っている思い出があれば教えてください。

豊田さん:私が子どもの頃は祖父母も両親も家業に入っていたので、お盆や年末年始など一般的な長期休暇の時期はかなりのオンシーズン。同級生が家族と遊びに行っている一方で、私は姉妹だけで過ごすことが多かったです。でも、小さいころからそれが当たり前でしたし、多方面からお越しいただけるお客様と接している両親を見て、いろんな方とお話が出来て面白そうだなと思っていました。

観光業の経験がないからこそ、自身のスキルとネットワークを生かした経営を

2020年から若女将を務めていらっしゃる豊田さん。その前は東京の外資系の会社でキャリアを積まれてきたそうですね。

豊田さん:こちらに戻ってくる前はニューヨークに本社がある外資系会社のマーケティング部門で統括を任されていました。そんな折、父の急な体調不良で家業を継ぐことを決意。とはいえ、前職のプロジェクトや引継ぎもありましたので、すぐには帰ってこられず、しばらくは東京と雲仙を行ったり来たりしていました。

ゆやど雲仙新湯に専念なさってからはロビーや客室、浴場などさまざまな部分をリニューアルなさいました。

豊田さん:ちょうど私が戻ってきた2020年はコロナ禍まっただ中。ご宿泊されるお客様もほとんどいらっしゃらず、休館にする期間も長かったんです。そんな中、メディアでも報じられたように、旅のスタイルもコロナ前とコロナ禍ではガラリと変わり、個人で動くお客様が主流となりました。そこでスタッフ皆で話し合いながら宿のコンセプトの見直しを図り、新コンセプトでゆっくりとお過ごしいただける空間をコロナ後にご提供したく、コロナ禍でお客様がいらっしゃらない間にリニューアルを行った次第です。

雰囲気がガラリと変わりましたよね。特にカフェや売店のあるラウンジスペースは木のぬくもりを感じるモダンな空間となっています。

豊田さん:コンセプトは「自然豊かな雲仙国立公園の中の旅館」。
会社員時代に知り合った空間デザイナーやグラフィックデザイナーの友人へ相談しながら1年半くらいかけて完成させました。雲仙ヒノキから漂う芳醇な香り、大きめの窓から差し込む自然の光…。お客様からもとてもゆったりと過ごせましたと嬉しいお言葉をいただいております。

これまでの仕事で培った経験やネットワークをゆやど雲仙新湯の経営にも生かしていらっしゃるんですね。

豊田さん:そうですね。ブックラウンジではゆったりとしたソファで本をお読みいただけるのですが、書籍や雑誌のセレクトを手伝ってくれたのは大手出版社の編集長。私は観光業に携わったことがなかったので不安な面も多かったのですが、これまでに出会ったたくさんの方に助けていただいた。東京から宿泊しに来てくださる人たちもいて、本当に感謝しかないです。

ラウンジ奥にある売店もリニューアルで生まれ変わった施設のひとつ。長崎や島原半島の名産品が木製の陳列棚に整然と並ぶ様はまるでギャラリーのよう。棚ごとに「島原」「小浜」「雲仙」そして「オリジナル商品」とカテゴリ分けされており、若女将のさりげない心遣いが感じられます。

そのほかにも、雲仙の天然水を配合したオリジナルスキンケアブランドや独自の視点・デザインで作成した『15マイルガイドブック』などさまざまな取り組みを行っているゆやど雲仙新湯。創業100年を越える老舗旅館の娘として生を受け、東京での異業種からの家業を継ぐという人生の決断をした若女将の次の一手に注目が集まっています。

次回のテーマはゆやど雲仙新湯を語る際には外せないストロングポイント“温泉”。敷地内から湧き出す4つの源泉を利用した4種類の湯についてお話を伺います。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
ゆやど雲仙新湯

長崎県雲仙市小浜町雲仙320 ( Google MAP

営業時間:

チェックイン15:00~18:00、チェックアウト10:00

TEL: 0120-73-3301

URL:https://www.sinyuhotel.co.jp/