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橘湾を望み、古くから風光明媚な温泉地として知られる雲仙市小浜町。湯けむりが漂う海辺の温泉街の外れにあるのが「入潮食堂」です。創業は1971年。半世紀以上に渡り小浜の地で営業を続けた大衆食堂は、昨年(2023年)9月、薬膳を中心とした食事処へとリニューアルしました。
「両親が熊本から小浜に移り住んで始めたのが『入潮食堂』。最初はテーブル3つの小さな飲食店でちゃんぽんや皿うどんを提供していました。地元の皆さんのおかげで現在の場所に店舗を構え、宴会や配達にも対応できるまでに成長したんですよ」
目を細めながらそう話すのは代表の林田裕子さん。2代目として店舗を切り盛りする林田さんに入潮食堂の歴史やリニューアルに至った経緯についてお話しいただきました。
林田さん:当時は出前の全盛期。コンビニなんてありませんでしたから、小浜町管内のお客様からしょっちゅう配達の注文が入っていたんです。朝から晩まで一生懸命働いている両親の姿を見て、子ども心に「すごく繁盛しているな」と感じていました。
林田さん:ただ、家業が飲食店の子どもの宿命で土日祝は両親と遊べなかったので、友人のことを羨ましく思った時期もありました。ただ、その分、愛情を注いでくださったのが地域の人たち。外で遊んでいる私たちをお風呂に連れて行ってくれるなど、周りの大人が一緒になって育ててくれたという思い出がありますね。
林田さん:実は、後を継ぐ気はなくて3年くらい会社員として働いていたんです。でも両親から「一緒にやってくれないか」という話がありまして。そこから約30年、先代の元で働きながら調理師の免許を取得。父が他界した10年前に代表を受け継ぐことになりました。
林田さん:そうなんです。母は80歳なので早く引退したいみたいなんですけど、娘としてはひとりで自宅にいるのも心配ですし、何より昔からの常連さんが母の顔を見に来てくださる。「お母さん、元気?」なんて声をかけてくださると母が元気になっているようで、その度にこの店の大切さを実感しています。
林田さん:コンセプトは「健康に良い食」。地元の業者から仕入れた食材を組み合わせて、できるだけシンプルに調理するよう心がけています。食材それぞれに身体へ働きかける性質があるとするのが薬膳の考え方。冬は体を温める食材、夏は体を冷やす食材と、季節に応じた料理を提供しています。
林田さん:もともと大衆食堂だったのでメニューの種類がすごく多くかったのでリニューアルを機にギュッと絞ることにしました。配達業務をやめた分、店内での食事・サービスの向上や宴会・法要、オードブル対応などに力を入れていきたいと思いますので、ぜひ、小浜でのお食事は入潮食堂へお越しくださいね。
小浜に移り住んだ両親が0からスタートさせた入潮食堂。先代が作り上げ、地域の方々から愛されてきた場所だからこそ、自分の代で大きく変えてしまってよいのかという葛藤もあったと林田さんは振り返ります。
「大幅にリニューアルすることでご来店されなくなるお客様もいらっしゃるのではないか、という不安が大きかった。だからこそ、それまで『入潮』だった屋号を創業当時の『入潮食堂』に戻したんです。原点に立ち戻って新たな気持ちで出発する。店名にはそんな想いが込められています」
現在は3代目となる甥御さんをはじめ、お母様、お姉様、姪御さんなど親族の力を借りながら新たな入潮食堂を経営している林田さん。小浜の地で半世紀を越えて紡がれるファミリーヒストリーが詰まった店内にはどこか懐かしいあたたかな雰囲気が漂っていました。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県雲仙市小浜町北木指3168−7 ( Google MAP )
営業時間:
11:30~14:00、17:00~21:00(木曜定休)
TEL: 0957-74-3610