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橘湾に映える美しいサンセットの風景が人気の雲仙市小浜町。2022年、そんな島原半島の西海岸を走る国道251号線沿いに1軒のおしゃれなカフェが誕生しました。
「My points」と名付けられたお店のドアをくぐると、白とウッドを基調にしたナチュラルな空間に並んださまざまプランツがお出迎え。香ばしいコーヒーの香りが漂う店内はゆったりとした時間が流れています。
「自分のカフェを開くのが子どもの頃からの夢だったんです」。そう話しながら、淹れたての湯気があがるカップを差し出してくれたのはオーナーの馬場絵里奈さん。人懐こい雰囲気と柔和な笑顔が印象的な女性です。オシャレなウッドテーブルをはさんでオープンまでの経緯についてインタビューすると、屋号のMy pointsに込められた彼女の想いを知ることができました。
馬場さん:コーヒー好きの父と観葉植物やお花が好きな母。そんな両親の影響が大きいですね。私の実家は瑞穂町(雲仙市)でイチゴ農家を営んでいるのですが、夜遅くまで仕事をしているふたりの傍らにはコーヒーがあったのをよく覚えています。
馬場さん:はい。それで中学生くらいになると進路を考えるようになるじゃないですか。私の場合、自然と「両親の好きなコーヒーと植物がある空間を作りたい」と思ったんですね。その頃から夢は「カフェ」と「花屋さん」。まずはお花のことをしっかり学びたいと島原農業高校へと進学しました。
馬場さん:卒業後は県立の農業大学校で学んだ後、「飲食店で経験を積もう!」と思って、イタリアンのお店やケーキ屋さんに勤めました。将来のためにスイーツづくりの勉強に励んだり、コーヒーコーディネーターや食品衛生の資格を取ったり・・・。プランツのあるカフェをやりたい、その一心でがむしゃらに働いていましたね。
馬場さん:ただ、その夢を実現できずにいたのも事実で。最後のチャンスだと決めて入社した会社でも30代後半になって「カフェは無理」と突然言われて・・・。「私のやってきたことは何だったんだろう」「この現実をどうやって飲み込めば」と考えるうちに、心が苦しくなってポッキリ折れてしまったんです。
馬場さん:そんな私に寄り添ってくれたのが当時お付き合いをしていた今の主人。仕事を辞めて北九州からこっちに来てくれて、いろんなところへ連れて行ってくれました。小浜にもよく来て足湯に浸かったり、温泉蒸しの料理を食べたり・・・。気力のなかった私も主人の優しさと小浜の景色に癒されて少しずつ前を向けるようになっていきました。
馬場さん:そんな時、小浜でふらりと立ち寄ったのが赤毛のアンをモチーフにしたレストラン&カフェ「アンシャリーハウス」さん。オーナーの泉さんがすごく素敵な方でいろいろと話をしていると、主人が「そこのシャッターが閉まっているお店は使ってないんですか?」って聞いたんです。そしたら「私の主人の持ち物なのよー」って。
馬場さん:そうなんです(笑)。中を見せていただくと、私が思い描いていた海が見えるカフェのイメージにぴったりで。「夢があるならそれはやっていいと思うよ。俺がフォローするから」という主人の言葉もあって、この店をオープンすることを決めました。元々、事務所として使われていたので天井や壁を剥がして改装したのですが、どんな空間ができるんだろうとずっとワクワクしていましたね。
馬場さん:人生って毎日の選択の連続だと思うんです。進学や就職といった大きな選択から「今日は何を飲もう」「あの場所に遊びに行こう」といった小さな選択。そういった点が全部繋がって今がある。だから店の名前を「My points」にしたんです。来てくださるお客様にとってこの店が日々のちっちゃな点になれれば嬉しいですね。
つらいこともあったけどこの人生を与えてもらったことはありがたいと感じています、とほほ笑む馬場オーナー。夢を叶えるまで遠回りをし、人生の酸いも甘いも味わったからこそ、そのまなざしには人を思いやる柔らかな優しさを感じます。
「My pointsのコンセプトは『ちょっと心が休まる場所』。年齢や性別関係なく仕事や学校、育児・家事でみんな頑張っている時代だから、ひとりでもふらっと立ち寄れてコーヒーを飲んで心がほぐれる。そんな“ここにいる間はがんばらなくてもいいよ”、という場所を作りたかったんです」
話を聞きながらコーヒーカップを口に運ぶと、焙煎した豆の香ばしい香りが鼻に抜け、ほろ苦くも優しい味が口の中に広がります。中学生の頃から夢を追い続け、紆余曲折ありながら40歳で叶えたカフェの夢。馬場さんが淹れるコーヒーからは彼女の人生を表現したとても深い味わいを感じました。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県雲仙市小浜町北本町219 ワタナベテナントC ( Google MAP )
営業時間:
平日/10:30~17:00、土日祝/10:30~18:00(不定休)