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長崎県大村市西本町
今年(2025年)7月、大村市西本町にオープンしたジェラートと茶バターの店「ちわたや」。地元の食材とオーガニックにこだわったカラフルな商品が並ぶ同店を経営しているのが、前野高宏さん・麻琴さん夫婦です。
楽しく前向きに自分たちの夢にチャレンジしている姿が印象的なおふたりですが、実は東日本大震災(2011年)と熊本地震(2016年)、2度の地震の被災者。自宅を2度も手放して縁もゆかりもない長崎に移住したという経歴があることをご存じの方は少ないのではないでしょうか。
今回は、そんな前野さん夫婦にスポットを当ててインタビュー。震災を経て長崎・東彼杵へ移住するまでのお話や「ちわたや」を開業してから8年間の裏話をお聞きしていく中で、高宏さんと麻琴さんの素敵な関係性を紐解いていきたいと思います。
麻琴さん:当時は子どもが生まれたばかり。その中で原発事故の情報が錯綜していて、千葉に居ながらもかなり不安を抱えていたんです。それで、関東から離れた方が自由に暮らせるんじゃないか、と判断して熊本への移住を決意。住み始めたばかりの注文住宅を売却して、新天地での生活がスタートしました。
高宏さん:九州各地のいろんな現場を飛び回りましたね。早朝から夜中まで働いて、ひと月の半分は家にいないなんてこともザラ。そんな時にふと「家族のために熊本へ移住したのに家族と過ごす時間を作れていないな」と思ったんです。ちょうど妻も自家製酵母のパンづくりを学んでいたので、一度生活を見直すいい機会だなと。その頃からふたりで店をやれたらいいね、と話すようになりました。
高宏さん:で、なんかやれないかな~と思っている時に出会ったのが酵素風呂。知り合いが事業継承してくれる人を探していたので「興味あります!」と手を挙げたんです。トントン拍子に話が進み、南阿蘇に中古の店舗兼住宅を購入。阿蘇の雄大なロケーションの中で、酵素風呂をやりながら妻が習ったパンも販売するというスタイルで営業を始めました。
麻琴さん:多分、店を始めてから1年半くらいだったかな。もともと「熊本は地震少ないよ」と言われて移住してきたので、まさか大地震が起きるとは思っていませんでした。店は大規模半壊、村のあちこちで土砂崩れが起きていて、日々の暮らしが一変。この場所で店を再建するのは無理だろうということで、どこかで店を開ける場所はないかと探し回り、偶然、たどり着いたのが長崎の東彼杵だったんです。
麻琴さん:振り返ってみると、震災という非日常の中でアドレナリンが出ていて、冷静さよりも勢いが勝っていただけような気がしますね。家族4人、誰もケガがなかったのも不幸中の幸い。「生きるためにお金を稼ぐ手段を考えよう!」と、やることが明確だったからこそ、長崎へ移住するという選択肢を選ぶことができたのかなと思います。
麻琴さん:縁もゆかりもない場所でしたけど、町全体がすごく熱心だったんですよね。Welcomeの勢いがすごいというか。それもあって東彼杵を選びました。そこでいろんな経験をさせていただいて、今年ようやく叶ったジェラート&茶バターの店。1度目の震災から14年、夫婦で「どうしようかね~」と言いながら、なんとかここまでやって来ることができました。
高宏さん:田舎の奥まった場所にあるパン屋だったので「ちわたやに行ってみたい」と思ってもらうためにはSNSしかなかったんですよ。やり始めて驚いたのが、東彼杵の人達が結構いかつい一眼レフカメラを持っていたこと。すごく綺麗な写真を撮ってSNSにアップしてたくさんの反応をもらっていたので、私たちもすぐにミラーレスを買いに行きましたね。
麻琴さん:写真を撮るのは主人、投稿は私。ふたりであーだこーだ言いながら撮影して、今でもコツコツと投稿を続けています。写真とともに、私たちの等身大の姿やお店の雰囲気などを発信し続けることで、ちわたやの商品の付加価値が高まっていく。たくさんの情報であふれている今の時代、中身(商品)も外見(SNS)も努力しないといけないなと感じています。
麻琴さん:根本にある価値観がすごく似ているんですよね。ただ、私が「こっちだ!」と思うと好き勝手動いちゃうので、それを許して付き合ってくれる主人の懐の深さにはめちゃくちゃ感謝していますし、ちょっと申し訳ないなとも思っています。
高宏さん:僕はどちらかというと保守的なので。妻がグイッと引っ張ってくれるのはありがたいですし、そういうデコボコな夫婦だからフォローしあってここまでやってこれたんじゃないかな。
麻琴さん:地元の食材とオーガニックにこだわったジェラートと茶バターで、全国に“長崎・九州の美味しい”を発信するというのが一番の目標。スタッフの人数も増えますので、組織として動くというのも新しいチャレンジ。お客さんが来てみたいと思えるお店、スタッフが働いていて良かったなと思える場所にしていけたらいいなと思います。
麻琴さんの言葉に、うんうんと頷く高宏さん。記者が「ご主人はどうですか?」と話を振ると、おふたりの素敵な関係性を感じる、こんなやりとりがありました。
高宏さん「右に同じです」
麻琴さん「右に同じでした(笑)」
高宏さん「あなたの叶えたい夢をサポートするのが僕の夢だからね」
しなやかな強さと深い絆で「ちわたや」を0から成長させてきた高宏さんと麻琴さん。大村ジェラート編という新章に突入した夫婦の物語は、たくさんの人々がファンになるような明るい言葉が綴られていくことでしょう。
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県大村市西本町540-3 ( Google MAP )
営業時間:
10:00~16:00(定休/日・月)
TEL: 0957-46-8806