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長崎県諫早市上町
古くから交通の要衝として栄えてきた、長崎県諫早市。約600メートルにおよぶアーケードを中心とした商店街エリアには、歴史を紡ぐ老舗と新しい感性が息づく新店が心地よく共存しています。
その一角、八坂神社のすぐそばに誕生した「焼肉八屋」。ここは、地元・諫早で建築業を営むミヤマディベロップメント株式会社が、自社が保有する一軒の古民家に新たな命を吹き込んだ場所なのです。
単なるリフォームの域を超え、設計のプロが自社の技術の粋を集めて作り上げた空間には、どのようなこだわりが隠されているのか。建築士として30年を超えるキャリアを持つ代表の山本道雄さんに、古民家再生の裏側と空間設計の真髄を語っていただきました。

山本さん:一番に感じたのは、やはり木造建築だけが持つ独特の風合いですね。築70年から80年という気が遠くなるような歳月を経て、建物全体が深い趣をまとっていました。
特に印象的だったのは、今ではなかなか手に入らないような立派な太い部材が随所に使われていること。この「古いからこそ美しい」という素材感をどう活かし、どう引き立てるか。そこが最大のテーマであり、一番見ていただきたいポイントでもありますね。
山本さん:ええ、もう正直にお話しすると、大変なことだらけでした(笑)。何しろ建物が古いものですから、家全体が大きく傾いていたり、あろうことか構造上、絶対に抜いてはいけない柱が欠損している箇所まで見つかったんです。
見た目だけ綺麗にするのは簡単ですが、それではお客様の安全は守れません。ですから、まずは構造計算をゼロからやり直し、耐震性や安全性を確保するための補強設計を徹底的に行うところから始めました。目に見えない土台の部分にこそ、一番時間をかけたと言っても過言ではありませんね。

山本さん:そこが一番のこだわりなのですが、店内のドアや建具、そしてカウンターに至るまで、既製品はできるだけ使わないようにしたんです。店内の寸法やお客様の歩く動線、さらにはスタッフの使い勝手に完璧にフィットするよう、すべて自社で設計・造作しました。
やはり既製品では、どうしてもこの空間に馴染まない隙間や違和感が出てしまう。一点一点をこの場所のためだけに作り上げることで、ここにしかない独自の世界観、しっとりと落ち着く質感を演出したかったんです。
山本さん:実は当社の本業である解体業務の際、まだ十分に使える立派な建具や良質な材料を、お客様の許可をいただいて大切に保管しているんです。
そうした受け継がれてきた素材を再利用し、新しい店舗のイメージに合わせて一点一点加工し直しました。ただ新しいものを持ってくるのではなく、素材が持つ歴史を今の形にアップデートする。これもリノベーションのプロとしてのこだわりですね。

山本さん:一番は「ゆとり」ですね。例えばカウンター席ですが、隣の方を気にせず過ごせるよう、一般的なお店よりも席の間隔を広めにとっています。椅子も、お酒やお肉をゆっくり楽しんでいただけるよう、長時間座っても疲れにくいハイバックの背もたれ付きを採用しました。
あとは動線設計です。お客様の出入りがスムーズなのはもちろん、スタッフがキビキビと動けるよう、カウンター背後の通路幅にも十分な余裕を持たせています。空間にゆとりがあると、不思議と時間の流れもゆったり感じられるんですよ。
山本さん:そうですね…。壁面には、セメントの白華現象をあえてデザインとして取り入れた「ソリド(SOLIDO)」という素材を使い、落ち着いた大人の雰囲気を演出しました。
また、入り口の格子窓も、お客様から大変好評をいただいています。古い建物の趣を壊さず、現代の美意識で整える。このこだわりの空間で、最高級のお肉を心ゆくまで堪能していただけたら、これ以上嬉しいことはありませんね。

30年以上にわたり商業建築の第一線で活躍してきた山本代表。「焼肉八屋」には、その技術と情熱が細部にまで宿った空間がありました。 最後に、八屋という屋号の由来を尋ねると、山本代表は少し照れくさそうに教えてくれました。
「名前を考える時に一番大切にしたのは、シンプルであること。地元の方に愛され、すぐに覚えてもらえるよう、横文字は使いたくなかったんです。あとは、数字を入れたいなという思いもありまして。末広がりで縁起が良い漢数字の『八』を選んで、『八屋』と名付けました」
オープンから1ヶ月が過ぎ、今では「八屋さん」と親しみを持って呼ばれるようになっているそうです。さて、魅力的な「箱」の解説は終わりました。次回はいよいよ、この空間で提供される「料理」についてご紹介します。どうぞご期待ください。
取材・執筆/Komori Daigo

長崎県諫早市上町1-2 ( Google MAP )
営業時間:
17:30~(不定休)
TEL: 0957-33-9132