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暮しを楽しむの手帖
やきとり五つぼ#2 地域の人々が集うJR喜々津駅そばの居酒屋。40年変わらない味とリーズナブルな金額に込められた店主の想い

崎県諫早市多良見町化屋

JR喜々津駅から徒歩1分にある「やきとり五つぼ」。店頭の赤ちょうちんに吸い寄せられるように扉を開けると、愛嬌のある笑顔が印象的な店主・瀬戸口進さんがお出迎え。昨年(2024年)、移転リニューアルしたばかりの清潔感のある店内には、どこか昔懐かしいノスタルジックな雰囲気が漂っています。

「“五つぼ”という店名の由来は、私のラッキーナンバー・5。若い頃、初めて競艇に行った時に何もわからないまま5号艇に賭けたら勝ったんですよ。それ以来、私にとって「5」は縁起の良い数字。だから、自分の店を持つなら名前に“5”を入れたかったんです」

1984年の創業から一人で店を切り盛りしてきた瀬戸口さん。店の隅々にまで込められたベテラン料理人としての哲学と、半世紀近くに渡り愛され続けてきた名店の美味しいやきとりを生み出すためのこだわりについてインタビューしていきます。

主役も脇役も最高級のものを。移転しても変わらない五つぼの哲学

昨年(2024年)、移転リニューアルした「やきとり五つぼ」。外観や内装でこだわった点を教えてください。

瀬戸口さん:ひとつはたくさんの五つぼロゴで装飾した玄関扉。長崎の頃からのトレードマークだったので、昔なじみの方に一目でわかってもらえるようにしました。新しく取り入れたのはプロジェクションライト。季節ごとにデザインされたイラストの照明を地面に映し出すことで、外食のワクワク感を演出しています。

長崎時代からの常連さんの反応はいかがですか?

瀬戸口さん:よく言われるのは「綺麗になったけど、前の店と変わらんくれ安心した」ということ。前の店から調理機材や什器はほとんど持ってきましたし、店内の配置もほとんど変えていないんですよ。唯一違うのは、座敷がテーブル席になったくらいかな。私自身、作業動線が同じなので新しい環境でもすぐに慣れることができましたね。

では、続いて食材について伺っていきましょう。食材を選ぶ際に大切にしていることはなんでしょうか。

瀬戸口さん:やはり鮮度ですね。新鮮な食材は、味・食感・旨み・香りと全てが豊かなので、その美味しさを最大限に引き出すことができます。実は、長崎時代から肉類を仕入れていたのは斜向かいにある「肉の丸徳」さん。すぐ近くに信頼のおける仕入れ先があるのは非常に心強いですし、何より仕入れがすごく楽になりました。

メインではありませんが、刺身も提供していらっしゃいます。

瀬戸口さん:刺身はタコ・イカ・ヒラスの3種類。長崎のヒラスは臭みがなく、程よい脂と旨味、そしてもちっとした食感が魅力です。実はお米にもこだわっていて、使っているのは新潟産の最高級コシヒカリ。白い艶、ふっくらとした食感、上品な甘味、豊かな香り…。冷めても美味しいのが特徴で、お酒の〆に注文する人も多い隠れた人気の一皿ですね。

食材、タレ、焼き加減…。五つぼのやきとりの“手軽さ”の裏にある“最高の1本”へのこだわり。

次に五つぼの看板メニュー「やきとり」について。瀬戸口さんはやきとりの技術をどのように学ばれたのでしょうか。

瀬戸口さん:独立する前に1ヶ月ほど知人の店で修業させてもらいました。短く感じるかもしれませんが、和食の板前としてある程度の技術はありましたからね。見て学び、実際に焼くという工程を繰り返すことで、短期集中型でやきとりの基礎を習得したんですよ。

それから約40年。毎日向き合ってきた「やきとり」へのこだわりがあれば教えてください。

瀬戸口さん:素材によって焼き方を変えること。柔らかい食感のささみやつくね系はふんわりと、脂の多いとり皮や豚バラはこんがりと焼くことで美味しさが引き立ちます。あとは自家製のやきとりタレ。40年前の開業から今まで継ぎ足し継ぎ足しでやってきたので、“五つぼのやきとり”の味の核ともいえる存在だと思います。

積み重ねてきた経験と技術。それが長く支持されてきた要因ですよね。

瀬戸口さん:あとは“玉ねぎ”かな。ウチが使っているのは兵庫県産の「淡路島玉ねぎ(シャーロットオニオン)」。甘みの強さ、柔らかさ、そして辛みの少なさが大きな特徴で、産地から直接取り寄せています。主役の肉も脇役の玉ねぎも妥協せずに一級品を使う。より美味しい1本を味わっていただきたいからこそのこだわりですね。

瀬戸口さんが感じる“やきとりの魅力”とはなんでしょうか。

瀬戸口さん:やっぱり手軽さでしょうね。塩とタレというシンプルな味付けながら、肉から魚介、野菜まで多様性があって素材そのものの味を気軽に味わえる。どんなお酒にも合いますし、特に、キンキンに冷やしたグラスで生ビールを一緒に味わうと最高ですよね。串盛をみんなでシェアしながらワイワイと楽しい時間を過ごすことができるのも、やきとりの魅力かなと思っています。

後日、記者がプライベートで「やきとり五つぼ」を訪れると、オープン直後にも関わらず1人のお客様がカウンターに座っていらっしゃいました。聞けば、1984年の五つぼ開業当時に長崎大学医学部に在籍していた40年来の常連さんということで、少しお話を聞くことができました。

「当時は、医者になるために県外から長崎に来た苦学生でしたから、もつ串を1本60円で食べられる五つぼの存在は本当にありがたかったんです。私たちにとってこの店は青春そのもの。だから長い時間が経った今でも、ふと食べたくなる時があるんですよ」

昔を懐かしむように熱弁してくださった常連さん。その手には、今でも90円というリーズナブルな値段で提供されている“もつ串”が握られています。40年経っても変わらない五つぼの味。それが長きに渡って愛されてきた大きな要因なのかもしれません。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
やきとり五つぼ

長崎県諫早市多良見町化屋474−6 ( Google MAP

営業時間:

17時30分~22時00分(定休日:水・木)

TEL: 090-8766-0510