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長崎県諫早市多良見町化屋
2024年11月、JR喜々津駅そばに一軒の居酒屋がオープンしました。その店の名前は「やきとり五つぼ」。もともとは長崎市の浦上天主堂近くで営業していた“やきとりの名店”が、開業40周年の節目に諫早市へと移転リニューアルしたのです。
そんな「やきとり五つぼ」を経営しているのが、店主の瀬戸口進さん。年齢を感じさせない矍鑠(かくしゃく)とした雰囲気、お客様を楽しませる粋なトーク、そして食材の美味しさを引き出す“いぶし銀”の技術が印象的なジェントルマンです。
今回の記事では、半世紀近くに渡り愛され続けてきた「やきとり五つぼ」の歴史にフィーチャー。店主である瀬戸口さんの半生にスポットを当てながら、その魅力を紹介していきたいと思います。

瀬戸口さん:小さい頃から料理を作るのが好きで、ごく自然と料理の道に進みたいと思うようになっていましたね。子ども心に「自分の好きな仕事でご飯が食べられるのが一番の幸せ」という想いがあったのかもしれません。中学・高校といろんな経験をしていくうちに、料理人として独立して自分の店を持ちたいという気持ちが大きくなっていきました。
瀬戸口さん:調理師専門学校で料理の基礎を学んだあと、武器は多い方がいいということで栄養士の専門学校へ入りました。卒業後は栄養士として数年働きましたが、やはり自分は調理の方が向いていると感じ、25歳で退職。リンガーハットグループの「長崎卓袱浜勝」にご縁をいただいて、料理人としての第一歩を踏み出しました。

瀬戸口さん:メインは調理。和・華(中国)・蘭(西洋)が融合した郷土料理・卓袱を煮炊きする中で高度な技術を身に着けることができました。また、私が入社した頃はリンガーハットが3店舗くらいの黎明期。会社が急成長していく中で、店舗マネジメントや販売促進、接客など、さまざまな業務を経験できたことは私にとって大きな財産となりましたね。
瀬戸口さん:やっぱり男の35、6歳というのは、自分の力を世の中で試してみたいと気持ちが燃える時期じゃないですか。浜勝で習得した調理技術や店舗経営の経験は独り立ちするための鎧兜みたいなもの。もともと店を持ちたいという想いはありましたし、「自分の好きな料理でどこまで通用するかやってみよう!」と独立を決意しました。

瀬戸口さん:独立する前に、立地調査や商圏の分析を行っていたこともあって、いくつかの候補地で通行量のデータを取りました。当時は今のようにデータが発達していなかったので、現地に足を運んで目視でカウント。その中で一番通行量が多かったのが上野町の店舗。誰が住んでいるのか、年齢層はどうか、そういったデータを把握しておいたことで、長く続けてこられたのかなと思います。
瀬戸口さん:いろいろありますけど、例えば、親御さんと一緒に来ていた小さい子どもたちが大人になって飲みに来てくれた時は、地域と過ごした時間の流れを感じて感動しました。あとはやっぱり、近くの長崎大学医学部に通っている学生さんたち。開業当時、苦学生だった若者が立派なお医者さんや教授になって訪ねてきてくれると、長く続けてきた喜びを感じますよね。

瀬戸口さん:もともと私の自宅は諫早だったので、元気なうちに地元に移転して余生の楽しみとして店をやろうと考えていたんです。店舗の老朽化、長崎までの通勤の負担、子どもたちの巣立ち…。いろいろな要素が重なって、移転をするなら今だ、と決めました。
瀬戸口さん:そうなんです。40年で作り上げてきた“五つぼの味”と“私の人間性”と一緒に、そっくりそのまま全部持ってきました。今まで作り上げてきたものは大事にしたいですからね。…この店は、40年間頑張って働いてきた私への神様からのプレゼント。そう思って、この新しい「やきとり五つぼ」を大切に育てていこうと思っています。

「もう私もいい年なので、店を大きくしたいとか繁盛させて儲けたいとかは考えていません。コツコツと継続して、細く長く続けていく。そうしていく中で、この街の風景の一部として『やきとり五つぼ』が馴染んでいけば嬉しいですね」
40年という長きにわたり、長崎市で「やきとり五つぼ」の暖簾を守り続けてきた瀬戸口さん。美味くて安いやきとりを片手に多くの人達が集い交流してきた人情味あふれる名店の物語は、店主の地元・諫早を舞台に新たな1ページが綴られていました。
次回はリニューアルした「やきとり五つぼ」の美味しさへのこだわりに迫ります。ぜひ、ご覧ください。
取材・執筆/Komori Daigo

長崎県諫早市多良見町化屋474−6 ( Google MAP )
営業時間:
17時30分~22時00分(定休日:水・木)
TEL: 090-8766-0510