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暮しを楽しむの手帖
お料理茶寮きぶん#1 大村市で2023年にリニューアルオープンした和食店。紆余曲折しながら50歳で独立した店主の半生をインタビュー

JR大村駅から徒歩5分の好立地にある和食店「お料理茶寮きぶん」。2023年にリニューアルオープンした綺麗な店内では、30年以上の料理人歴を持つ代表の鴨川美文さんが腕によりをかけて調理した色彩豊かなメニューの数々に、幅広い年齢層のお客様が舌鼓を打っています。

平戸の兼業農家に生まれた鴨川さん。ご自身も農業をやろうと高校卒業後に長崎県立大学校に進学しましたが、先輩に誘われて始めた寿司屋のアルバイトで料理のおもしろさに気づいたそう。当時はバブル期だったこともあり、米は作るよりも握った方が儲かる、と20歳で寿司職人の道を選びました。

「厳しい世界でしたけど、両親の反対を押し切った手前、頑張るしかなかったですね」と振り返る鴨川さんは今年で52歳。ハタチで飲食業界に足を踏み入れ、50歳で自分の店を手に入れたベテラン料理人の半生をインタビューで振り返っていきたいと思います。

寿司屋、料亭、割烹…。貪欲に料理の技術を磨き続けた20代。

30年以上の経験を積んできた鴨川さん。料理人人生の中で大きな転機となったことを教えてください。

鴨川さん:ひとつ目は大村の寿し政で働けたこと。私にとっては2か所目の職場になるのですが、転職するにあたって重要視していたのが“できるだけ若いうちに握りや巻きの経験を積めること”でした。カウンターに大将1人という寿司屋が多い中、寿し政はカウンターに4名くらい板前さんがいたので「自分にも握るチャンスがあるんじゃないか」と思ったんです。

確かに実践に勝る経験はないですもんね。

鴨川さん:そうなんですよ。だから、いつでも握り・巻きの担当に指名されてもいいようにずっと一人で練習をしていました。で、2年くらい経ったときに大将から「お前、握りできるとか?」と聞かれたので即答で「握れます!」と。練習の成果もあってその日から握りと巻きを担当させてもらって、自分でも驚くくらいのスピードで上達していきました。

寿し政で4年半在籍したのち、26歳で帰郷。ホテルが運営する料亭に勤務し、和食技術の研鑽に励まれます。

鴨川さん:料理人としてステップアップするためには、和食の基本的なこともできないとダメだと思ったんですよ。その後、ご縁があって長崎市の銅座にある“割烹こじま”に勤務。これが私にとって2つ目の大きな転機。先代の社長はかわいがってくださって、割烹こじまの店長を任されたり、新事業として始めた角煮まんじゅうの製造に関わったりと、忙しいながらも充実した日々を送っていました。

ご病気になって退職するまで約10年在籍なさいました。

鴨川さん:仕事は楽しかったので続けたかったんですけど、病気ではどうしようもないので。私の状況を心配してくださった寿し政の大将が「体が良くなるまでウチでぼちぼちやれば良か」と仰ってくださって3年ほど働いていました。そんな時に大村セントラルホテルのオーナーから「飲食店の店舗展開をやりたいから来てくれないか」って誘われたんですよ。

和食店の料理長と飲食事業の統括部長。長きに渡って会社を支えた鴨川さんに舞い降りた大きな感謝

大村セントラルホテルのオーナーからオファーを受けたのが、料理人人生の3つ目の転機。

鴨川さん:そうですね。ずっと断り続けていたんですけど、1年くらい誘っていただいたこともあり話に乗ることにしました。飲食事業は好調で大村・諫早エリアで最大6店舗を展開。私は諫早駅前の和食店の料理長をしながら、各店舗の会議に参加したり、人が足りないときにヘルプに入ったりと、部長として飲食事業全体の統括もしていました。

これまでの経験をいかんなく発揮なさったわけですね。

鴨川さん:10数年やらせてもらったんですけど、コロナ禍で飲食事業を縮小することになり、同時期に私も体調を崩してしまった。「これからどうしようか…」と思案している時にオーナーから電話があったんです。「“お料理茶寮きぶん”の土地にマンションを建てることにした。その代わり、隣の空き店舗はお前に譲るけん、退院したら独立して自分の店ばやればよか」って。

それはすごい…!長い間、会社に尽くしてくれたお礼のようにも感じます。

鴨川さん:「いるもんがあったら取り壊す前に遠慮なく持っていけ」と仰ってくださって、業務用の冷蔵庫、厨房器具、食器類、看板など、いろいろなものをありがたく頂戴しました。私も体調がよくなり、新たな「お料理茶寮きぶん」は2023年に移転リニューアルオープン。山あり、谷ありの人生でしたけど最終的に自分の店を持てたというのは嬉しいですね。

お料理茶寮きぶんの屋号を引き継いだのには何か理由があるんですか?

鴨川さん:実は屋号は変えていいと言われたんですけど、長く通ってくださるお客様もいらっしゃいましたし、何より私自身も愛着があったので、そのまま「お料理茶寮きぶん」でいこうと決めました。ランチにディナー、宴会、慶事・法事、仕出し…。自分のペースではありますが、大村市民や観光客の皆さんに喜んでいただけるようなお店にしていければと思っています。

「私の恩人は、寿し政の大将、割烹こじまの先代社長、そしてセントラルホテルのオーナーの3人。この人たちに巡り合えたことが私の料理人人生最大の幸せだと思っています」

20歳で本格的に料理人として修業をはじめ、寿司や和食といった調理スキルはもちろん、店舗・事業運営といった経営スキルも貪欲に学んできた鴨川さん。人生の転機のたび良縁に恵まれたのも、その積み重ねた努力と経験値がもたらした必然だったのかもしれません。

取材・執筆/Komori Daigo

※インターネットで「お料理茶寮きぶん」と検索して出てくるホームページはリニューアル前のものとなります。またGoogle等の口コミで掲載されている画像も2023年以前のものが残っていますので、ご予約・ご来店の際はご注意ください。

INFORMATION
お料理茶寮きぶん

長崎県大村市東三城町21 ( Google MAP

営業時間:

昼11:30~14:00(定休:月・水・金)、
夜17:00~22:00(定休:月曜)

TEL: 0957-52-0220