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暮しを楽しむの手帖
海鮮蒸気 福#4 海鮮蒸気鍋を長崎の新しいソウルフードへ。大村に誕生した小さなお店が目指すデッカい目標

2024年11月、大村市にオープンした「海鮮蒸気 福」。長崎の新鮮な魚介類を使ったヘルシーな蒸気鍋ということもあり30代以上のグルメな大人たちが通っている大村フード界のニューカマーですが、オープン当初は客足が伸びず苦しい時期が続いたと代表の松本康一郎さんは振り返ります。

「集客の難しさを痛感しましたね。飲食店のオーナーとしては新参者なので、いろんな人に意見を聞いて改善しての繰り返し。チラシを配ったり、SNSに力を入れたり…。試行錯誤しながら少しずつ認知されてきたかなと感じています」

普通なら諦めてしまいそうな状況でも「良い勉強の機会だった」と前向きにとらえる松本さん。スタートが低空飛行だったからこれからは上がるだけ、というポジティブな考え方に引っ張られるように売上も伸びてきました。今回はそんな松本さんが経営する「海鮮蒸気 福」の“これまで”と“これから”についてインタビューしていきたいと思います。

新参者だからこそ足を使って自分の想いをしっかりと伝える。その実直さが紡ぐ素敵なご縁

海鮮蒸気 福のウリのひとつが新鮮な魚介類。そのためには仕入れが重要だと思うのですが、公務員という畑違いの仕事をしていた松本さんはどうやってコネクションを作られたのでしょうか。

松本さん:それはもう“足で稼ぐ”。とにかく長崎の新鮮な貝類にこだわりたかったので、平戸や諫早の漁協や地元の漁師、水産会社などに直接足を運んでお願いしました。話を聞いてもらえるか心配だったのですが、特に漁協や地元漁師の方々は歓迎してくださって…。いろいろと助けてくださって本当にありがたい限りでした。

それでも知らない場所に交渉に行くというのは、想像以上の緊張感だったと思います。

松本さん:私は基本的にタフな性格なので(笑)。「貝ありますか、カニありますか」って突撃して、売ってもらっての繰り返し。1箇所1箇所と広げていって、少しずつ取引してくれるところを増やしているんですよ。先日も橘湾中央漁業協同組合にお邪魔した時に、檜扇貝の養殖をしている方がいらっしゃって。お話しするうちに「ウチのでよかなら買っていかんね」と。

精力的に動いていらっしゃるからこそ、素敵なご縁に巡り合えている。

松本さん:そうですね。コストパフォーマンス的にいったら電話の方が楽なんでしょうけど、長崎の飲食業界で私は新参者。ちゃんとお会いしてこちらの熱量をお伝えすることで、私個人や私の店のことを信頼してもらう。そういったコネクション作りは本当に大切にしていますね。

取材中には業者の方が納品にいらっしゃいました。

松本さん:今、生簀に入っている伊勢海老を持ってきてくださいました。実はこれ、「西海橋の魚市場に納品するついでにウチにも卸してくださいよ〜」ってお願いしたやつなんですよ。その時は「仕方なかね」って感じでしたけど、蓋を開けたら立派な伊勢海老が3匹。サービスで1匹追加までしてくださって、周りの皆さんのおかげでこの店が成り立っているんだなと改めて感じました。

ゆくゆくは犬猫の保護活動事業にも取り組みたい。そのためにも目の前の課題を一歩一歩着実に

ところで、屋号の「福」は松本さんが飼っているワンちゃんの名前が由来だとお聞きしました。

松本さん:そうなんです。「福」って縁起がいい言葉ですし、中国っぽいイメージもあったので海鮮蒸気鍋の店にぴったりだなと思って決めました。…今思えば、福との出会いも不思議な縁でしたね。元々、私たち夫婦は実家で犬を飼っていた時期もあるくらいの犬好きなんですけど、家族同然の愛犬との別れを経験するうちに「悲しくなるから飼わない」という方針になっていたんです。

私もペットを飼っているので、その気持ち、よくわかります。

松本さん:でも、子どもが「犬を飼いたい」と言い出したんですよ。すると、同じタイミングで友人が保護犬の里親活動を始めて。「犬好きやったやろ?いま預かっている子、かわいかけん見に来ん?」と誘われたんです。そう言われると会いに行くのが犬好きの性。そしたら子どもが「この子がいい!」と言い出しまして(笑)、めでたくお迎えすることになりました。

福ちゃんは松本家に来るようになっていたかのようなお話。

松本さん:その経験があったので店内には保護活動をしている団体への募金箱を設置。「福」をウチの看板犬にしてInstagramで保護犬との暮らしを発信したり、犬猫の保護活動に取り組んでいる団体や譲渡会などのイベントを紹介したり…。自分たちにできることは少ないですけど、地道に活動することで殺処分ゼロに少しでも寄与できればと取り組んでいます。

素敵ですね。

松本さん:ゆくゆくは私も犬猫の保護活動に携わりたいな、と考えています。そのためには「海鮮蒸気鍋」の飲食事業を軌道に乗せて安定させることが大前提。売上を伸ばす、2店舗目・3店舗目と多店舗展開をする、ランチを始める…。時間はかかると思いますが、一歩一歩着実に進んでいくことで犬猫の保護活動という新たな夢も、きっと叶えられると信じています。

松本さんの人生に影響を与えたのは福ちゃんだけではありません。子どもの頃に飼っていた故・ムサシちゃんとの別れが、“松本康一郎”という人間にとって大きなターニングポイントになったと若き代表は振り返ります。

「ムサシは事故にあってしまって、家族で安楽死を選択したんです。子ども心に本当にショックで、『ムサシの分まで自分はがんばって生きなきゃいけない』と強く感じました。何か困難にぶち当たっても逃げ出さないという姿勢はこの頃から培われたような気がします。『人生は一度きりだから』と脱サラして自分の店を開いた原点もそこにあるのかもしれませんね」

“海鮮蒸気鍋を長崎の新しいソウルフードへ”。大村に誕生した小さなお店のとてつもなく大きな目標。これまで出会った多くのご縁と愛するワンコたちへの想いを胸に、松本さんは今日も笑顔でお客様をお迎えしています。

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
海鮮蒸気福

長崎県大村市杭出津三丁目386番地1-A2 ( Google MAP

営業時間:

火~土/17:30~23:30、日/17:00~23:00(月曜定休)

TEL: 080-7988-8832