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暮しを楽しむの手帖
旅館國崎#1 小浜温泉の裏通りに佇む“小さな大人の隠れ宿”。創業1972年の老舗旅館が誘うノスタルジックな世界へようこそ

有明海に大きく突き出した島原半島の西側に位置し、海と夕陽と湯けむりの温泉地として知られる小浜温泉。ホテルや旅館が立ち並ぶ海沿いの中心街から少し離れた裏通り、古民家のようなノスタルジックな佇まいを見せているのが「旅館國崎」です。

9の客室と1棟貸の離れというこぢんまりとした宿が掲げるコンセプトは“大人の隠れ宿”。昭和にタイムスリップしたかのような建物の雰囲気、源泉かけ流しの温泉が楽しめる3つの貸切風呂、海辺の温泉街ならではの料理など、ゆったりと羽を伸ばすことができる人気施設となっています。

「大人の隠れ宿ということで、ご利用が多いのは30~60代のご夫婦。結婚記念日などにご宿泊になるお客様もいらっしゃって、ご希望があればスタッフからお祝いの歌をお贈りしています」と教えてくれたのは若女将の井上尚子さん。まずは、旅館國崎の歴史についてお話を伺っていこうと思います。

築110年の古民家の資材や調度品を移設して作り上げた“快適な大人の空間”

創業1972年。半世紀以上の歴史を持つ國崎の沿革を教えていただけますか?

尚子さん:私の祖父がこの場所で営業していた旅館を購入し、1972年に宿泊業を始めたのが旅館國崎のはじまりです。私が小さい頃に祖父は他界したので、その後は父が2代目として事業を継承。全国に150軒に満たない日本秘湯を守る会のお宿にも選出され、国内外から多くのお客様にお越しいただいています。

随所に温もりと懐かしさを感じる建物。さりげなく置かれたさまざまな民芸品も家庭的な雰囲気を演出していますね。

尚子さん:今から約30年ほど前、私が10歳の頃に大改装をしたんですよ。父が渋く深みのあるデザインが好きだったということもあり、大分県にあった築110年の古民家から柱や梁、手すりといった資材を運び込んでリフォームに活用しました。当館は創業して50年ちょっとなのですが、この改修が功を奏してお客様には「もっと古く感じる」と言っていただいているんです。

談話室に飾ってある振り子時計や脚踏みミシンといった調度品は、骨董品好きのお父様が集められたもの。

尚子さん:そうなんです。年配の方がいらっしゃると「昔、実家にあったわ」と懐かしまれていますし、若い方は珍しいみたいでよく写真を撮られていますね。古き良き時代のモノに囲まれた談話室は当館でも人気の高い場所のひとつ。お客様の中には、お部屋ではなく談話室で読書をしてお過ごしになる方もいらっしゃるくらいなんですよ。

廊下に点在する和のランプシェードも素敵ですね。

尚子さん:ありがとうございます。各部屋には“ご意見帳”には宿泊したお客様の感想を自由に書いていただいているんですけど、特に多いのが接客と温泉の質。「すごく元気でフレンドリー」「スタッフさんとの会話が楽しい」「温泉の質がすごく良くて気持ちよかった」というお褒めの言葉をいただくと、すごく嬉しい気持ちになりますね。

どんなお客様にも笑顔でお出迎えしたい。さまざまな経験を経て家業に入った若女将の想い

では、次に若女将のことをお聞きしていこうと思います。

尚子さん:もともと私はアートやデザインに興味があって、家業に入ることはあまり考えていませんでした。高校はデザイン科、短大でも造形デザインを専攻。短大卒業後は中国へ2年間の語学留学をし、帰国してからは武道具店のデザイン担当としてカタログ制作やネット販売に従事しました。

なぜ中国へ語学留学をしようと考えたのですか?

尚子さん:父から「今後、日本にやってくる中国人が増えてくるから、中国語を勉強した方がいい」と言われたのがきっかけです。私も就職する前に新しいことを学んでおきたいという気持ちがあったので、全く中国語を喋れないにも関わらず、語学留学を決意。現地の語学学校は中国語だけで授業を進めるので、とにかく徹底的に発音の勉強をしていましたね。

なかなかハードルの高い挑戦。

尚子さん:若いからできたというのはありますね(笑)。でも、私はどちらかというと人と話すのが得意じゃなかったんですけど、語学学校では喋らざるを得ないので段々とコミュニケーション能力は上がっていきました。また、中国人の「失敗してから考えよう」という思考から学ぶことも多く、メンタル的にもすごく成長できた2年間だったと感じています。

さまざま経験を経て、今は家業である旅館國崎で働いている尚子さん。今、若女将として力を入れていることがあれば教えてください。

尚子さん:“夕食の前菜のアイデア出し”ですね。食事の内容は代表である父が決めているんですけど、最近になって前菜を任せてもらえるようになったんです。地元の農家さんが育てた素材の味を活かすことができるような前菜が私のこだわり。厨房の調理スタッフの意見も聞きながら、お客様が最初に味わう一皿として最高の前菜を提供できればと思います。

温泉旅館の娘として生を受けた尚子さん。子どもの頃は世間が休みの時に遊びに行けなかったり、お風呂が温泉なのでおもちゃ入りのバスボールを使えなかったりと、温泉旅館ならではの悩みを抱えていましたが、今は旅館國崎の若女将として働けることに誇りを持っていると笑います。

そんな尚子さんが心がけているのが、お客様を笑顔でお迎えすること。どんなにチェックインの予定時刻を遅れても、玄関を開ければ優しく包み込んでくれるのが旅館國崎の大きな魅力です。

「わざとチェックインを遅れてしまう方っていないと思うんですよ。観光が楽しくて気がついたら過ぎていたり、渋滞で時間がかかってしまったり…。お客様から“申し訳ないな”という気持ちを感じるからこそ、少しでもホッとしていただけるような接客をするよう努めています」

取材・執筆/Komori Daigo

INFORMATION
旅館國崎

長崎県雲仙市小浜町南本町10-8 ( Google MAP

営業時間:

チェックイン/15:00~ チェックアウト/~10:00

TEL: 0957-74-3500

URL:https://kunisaki.jp