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長崎県大村市西本町
長崎県大村市で14年以上、地元の人々に愛され続けている居酒屋「あぶり家COCOから」。“1日の終わりをちょっと楽しく”をコンセプトに、お客様を笑顔で迎えている同店を経営しているのが、市内に4つの飲食店を展開する株式会社COCOからの代表、野中洋平さんです。
甘いマスクに柔らかな物腰、モックネックにジャケットを合わせた洗練されたファッションは、まるで都会から来たモデルのよう。しかし、そのスマートな佇まいからは想像もつかないほど、経営者としてのスタートは破天荒なものでした。
「料理の実務経験もなければ、手元の資金もゼロ!全く再現性なんてないですよ」と豪快に笑う野中さん。異色の経歴を持つ彼がいかにして組織を築き、逆境を突破してきたのか。その波乱万丈な半生と独自の経営哲学に迫ります。

野中さん:いやぁ、20代前半は本当にフラフラと迷走していましたね(笑)。当時はとにかく「就職したくない!」っていう一心で、高校卒業後に福岡の大学へ進んだんです。でも、「俺は何がしたいんだろう?」という自分探しが始まっちゃって、1年でパッと辞めてしまいました。その後、「役者になるぞ!」と思い立ち、養成所のオーディションに受かったのを機に上京したんです。
野中さん:ところが、人生そう甘くはなくて。1年半ほどバイトをしながら養成所に通っていたんですが、大ケガをしてしまったんです。役者の仕事もまだない時期でしたから、一度長崎に帰って工場の旋盤加工の仕事に就きました。でも、どうしてもその仕事が自分にフィットしなくて…。「やっぱり都会に出て一旗揚げたい!」という思いが抑えきれず、今度は大阪に行ってホストになりました。

野中さん:よく言われます(笑)。でも、ホストクラブという「究極の接客業」で揉まれた経験は、今の私にとってすごく大きな財産になっていますね。その後、20代半ばで「飲食の道で生きていこう」と決めて長崎に戻りました。経営も学びたかったので、多店舗展開している地場の居酒屋に接客スタッフとして入社。1年で店長を任せてもらい、2年ほど店舗経営を経験してから27歳で独立を決意しました。
野中さん:ありましたよ(笑)。だから親に「3年くらい料理の修業をして、30歳になったら店を出したい」って相談したんです。そしたら父から「そんな遠回りをしてどうするんだ?」と一刀両断されまして。「経営者は、自分にない能力を持っている人を雇い、その力を発揮してもらうのが仕事だ。料理ができないなら、料理人を惹きつける力、人を動かす能力を磨けばいいじゃないか」と。

野中さん:父の言葉に背中を押されて、「よし、若いうちに挑戦しよう。もしダメでも、まだやり直せる!」と腹をくくりました。そこからはもう怒涛の毎日。貯金もゼロでしたから、銀行へ融資のお願いに行って、改装費として1500万円ほど借りました。今思えば無知ゆえの恐ろしさですが、融資が確定する前に工事を始めちゃって、銀行の担当者さんの頭を抱えさせてしまったこともありましたね(笑)。
野中さん:経営の厳しさを本当の意味で分かっていなかったからこそ、飛び込めたんだと思います。正直、今だったら怖くてできないですね。当時、一番衝撃的だったのは通帳の数字。最初に1000円でつくった通帳に、融資の1500万円がドカンと入ったと思ったら、支払いでその日のうちに全部出ていって、残高がまたすぐ「0円」になっちゃったんです。

野中さん:全く残していませんでした。オープンの前日に、手持ちの現金が本当にゼロ。だから、最初の3日間をプレオープンにして、父や兄、自分の人脈をフル活用して200人くらいの方に来ていただいたんです。そこで頂いたお祝い金をそのままレジに入れ、それを運転資金にしてスタートを切りました。だからスタッフにはいつも言っています。「私のやり方は絶対に真似しちゃダメだよ」って(笑)。
野中さん:それはもう、ハローワークに足しげく通ってなんとか。オープンの前月に調理経験者を雇うことができました。面接の時に「私は料理が作れません」と正直に打ち明けたら、最初は絶句されましたけど(笑)、私の熱意を伝えていくうちに「面白い、一緒にやりましょう」と言ってくれて。私がアイデアを出し、彼が形にする。そんな二人三脚でメニューを作り上げたのは本当に良い思い出ですね。

波乱万丈なオープンから十数年。一人の青年が勢いと共に立ち上げた店は、今や大村市内に4つの飲食店と運転代行会社を構えるグループへと成長しました。2019年には法人格を取得し、株式会社COCOからを設立。野中さんが法人化を決意した背景には、業界への熱い想いがあったのです。
「かつての飲食業界は、休みも少なくて社会保険もない、『ブラック』な環境が当たり前でした。私はそれがどうしても嫌だったんです。飲食で働く人の社会的地位をもっと高めたい。だからこそ、組織を整えて、スタッフが安心して長く働ける、家族に胸を張れるような会社にしたかったんです」
「やりがい」だけでなく、人生を託せる「働きがい」を届けていきたい――。そう語って微笑む野中さんの視線の先には、開店前の厨房で真剣に仕込みに励む若手スタッフの姿。彼らを見つめる眼差しは、その未来を優しく見守る経営者の慈愛に満ちているようでした。
取材・執筆/KomoriDaigo

長崎県大村市西本町524 ( Google MAP )
営業時間:
18:00~翌0:00(日曜定休)
TEL: 0957-47-5372