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熊本県八代市本町
巨大な生け簀と鮮度抜群の食材で八代の美食家たちを魅了し続ける「居酒屋ばんや」。しかし、全国の飲食店が大きな影響を受けたコロナ禍のさなか、廃業の二文字が脳裏をよぎった代表の福田勝文さんを奮い立たせたのは、ある常連客からの言葉と家族同然のスタッフたちの存在でした。
最終回となる本記事では、2004年のオープンから20年以上に渡って店舗を繁盛させてきた、福田代表の「経営者としての顔」と「未来への想い」をフィーチャー。「究極の食を提供したい」という情熱ゆえに抱える葛藤や節目を超えて描く理想の店舗像など、八代の名店を支える、熱い“福田イズム”の核心に迫ります。

福田さん:やっぱりコロナの2年間だよね。本当にお客さん来なくて、売上が10分の1になった。正直しんどかったし、実際、辞めようかなとも考えたんよ。でも、ある人に相談した時、「かっちゃん、ばんやがなくなったら寂しかね」って言われて。その一言をもらったおかげでなんとか踏ん張れたって感じかな。
福田さん:あの期間、休業する店も多かったけど、ウチはずっと開けとった。オーナーとして従業員の生活を守る責任があるけんね。「お客さんが来んとに給料もらうのは申し訳ないけん、他所でバイトしますよ」なんて言ってくれるスタッフもおったけど、「行かんでいい」って止めて、給料も1円も減らさんかった。その分、みんなが一致団結して頑張ってくれたよね。

福田さん:ウチの店で働いてくれるスタッフは、従業員というよりも家族と思っとるからね。中小企業やからこそ、距離の近さを生かして困っとるなら助けるし、プライベートな相談にも乗る。だからと言って甘やかしとるわけじゃなかですよ。ホールも調理場も、ベテランも新人も関係なく、「お客様に真心を尽くす」ということに関しては厳しく指導しとります。
福田さん:それが、来店してくれるお客さんへの誠意やと思うからね。長く働いとると仕事が雑になってしまうこともあるけど、ウチでは常に緊張感を持って仕事に向き合ってほしいと伝えとります。誰しも得手・不得手はあるもんやけど、私が求めとるのは真心を尽くして接する姿勢。そのために一生懸命がんばっているスタッフを見ていると嬉しくなるね。

福田さん:ひとつは、寿司を前面に押し出すこと。「居酒屋ばんやはいろいろ美味しいけど、やっぱり寿司が一番やね」と言ってもらえるように更なる改良と広報に力を入れたいと考えてます。ただ、ひとつ問題なのが、私が食材にとことんこだわって最高の寿司を作ろうとすると、どうしても原価が合わんごとなってしまうこと。それが一番の悩みどころやね。
福田さん:そう。今の「ばんや寿司」は2000円で、これでも充分うまかですよ。でも、そこに北海道産のバフンウニやイクラなんかを追加したいという欲があって。そうすると値段が倍くらいになってしまうんよ。寿司以外のメニューでもそうやけど、究極を求めれば求めるほど値上がりする。果たしてそこまでしてやる必要があるのかという葛藤は常に抱えているね。

福田さん:東京や大阪、京都のような都会だったらニーズはあるんでしょうけど、ここは熊本の片田舎。ハイクオリティの高級志向コンセプトに振り切るのはなかなか難しいとですよ。こだわりの料理を提供したい、でも地元の皆さんに気軽に楽しんでほしい。そのバランスをとりながら考えんといかんですね。
福田さん:初めて来たお客さんでも、常連さんでも、誰もが心地よくゆっくりできる場所であり続けたいね。ウチは全席個室で掘りごたつやけん、ゆっくり雑談して、旨い飯と酒を楽しんでもらえる。「今日は気持ちよく食事できたね」「料理もスタッフも良かったね」と幅広い年齢層の人達に満足して帰ってもらうのが、これからも私の理想です。

全4回にわたり「居酒屋ばんや」の魅力をお届けしてきましたが、最大の魅力はやはり、巨大生け簀や高級食材をも凌駕する、福田代表の人間力にあると感じました。
「お客様に喜んでもらいたい」。その一心で採算度外視の仕入れを行い、スタッフを我が子のように育て、理想と現実の狭間で悩み続ける。その姿こそが、八代の人々に愛され続ける理由なのでしょう。
最高の魚と旨い酒、そして心温まるおもてなし。ぜひ「居酒屋ばんや」の暖簾をくぐり、その熱量を肌で感じてみてください。きっと、忘れられない八代の夜になるはずです。
取材・執筆/Komori Daigo

熊本県八代市本町1丁目5-31 ( Google MAP )
営業時間:
16:00~翌0:00(不定休)
TEL: 0965-33-8841