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長崎県雲仙市吾妻町阿母名
長崎県の島原半島北東部に位置し、雲仙・島原方面の玄関口となっている雲仙市吾妻地区。豊かな自然を生かした畜産とブロッコリー栽培が盛んなこの場所に、2024年、とてもユニークな施設が誕生したのをご存じでしょうか。
その名前は「ムーミンティラ」。なんと、コンサートや発表会・セミナー等に使用できる約40名収容の“ホール”、お洒落なカウンターでゆったりと過ごせる“カフェ”、子どもたちの想像力を育む“図書スペース”という3つの機能を持った、誰でも気軽に利用できるフリースペースなんです。
こんな素敵な場所を作ったのは、働きがいコーディネーターとして活躍する野中佐代子さん。還暦を過ぎて生まれ育った吾妻町で長年の夢を叶えたという野中さんに、ムーミンティラのオープンに至るまでのお話を聞かせていただきました。
野中さん:熊本の音楽短大を卒業してから中学校の音楽教諭、会社員を経て、25歳から約30年、ピアノ講師として活動してきました。小さい頃からレッスンに通ってくれる子どもたちの成長を見守り、応援できるピアノ講師はまさに天職。目標を達成した時に見せてくれるキラキラとした笑顔は本当に感動的で、毎日が学びの連続でした。
野中さん:障害を持つ子と健常児をつなぐボランティア団体を設立したり、地域のグループホームで音楽療法を行ったり…。ピアノ講師と並行しながら、そうした活動を十数年続けていく中で、子どもから高齢者、障害を持つ方まで、地域に住むさまざまな人がお互いに尊重しあってコミュニケーションができるような環境を作りたいと考えるようになりました。
野中さん:人生の最後に寄り添いながらケアをする介護職は本当に素晴らしいお仕事。ただ、青天の霹靂的な話で経営者として携わるようになったので、最初は不安も大きかったんです。片手間でできる仕事ではないと、ピアノ講師などの活動は意を決して終了。「自分の親を入所させたくなるような施設」を目標に掲げて、2021年に経営から退くまで第一線で取り組んできました。
野中さん:きっかけは、経営に携わり始めたころに行ったスタッフとの面談。そこで彼らの自己肯定感が低いことに気づいたんです。そこで、アンソニー・ロビンズのセミナーでコーチングを学習。スタッフ向けに“ありのままの自分を認める”研修を重ねていくことでコミュニケーションが活発になり、風通しの良い職場になったんです。スタッフから「佐代子さん、おばあちゃんになったらウチに入所してくださいね」と言われた時は本当に嬉しかったですね。
野中さん:すごく詩的に表現すると“私の人生だから”。子どもの成長を見守ったピアノ講師、ひとりひとりに寄り添った介護の仕事、障害者と交流したボランティア活動…。さまざまな経験を経て「地域の人たちが集ってわくわく生き生きと自分らしく過ごせるような空間を作りたい」という想いが強くなりました。
野中さん:この建物は40年ほど前にオープンした母の喫茶店だった場所なんですよ。閉店してからは賃貸物件として貸し出していたんですけど、たまたま空くことになって。なんというか「夢を叶えるのは何歳からでも遅くないよ」と後押ししてくれているように感じました。人生は一度きり。これまでの経験やさまざまな人とのご縁、そして家族の支えが私に一歩を踏み出せてくれました。
野中さん:構想の青写真は、ピアノ講師時代に感じていた「気軽に発表会ができる小さなホールがあったらいいな」という想い。そこに“気兼ねなくカウンセリングやコーチングができる空間”、“心の栄養となる本との出会いがあるスペース”を設けることで、利用者によってさまざまな活用をしていただける地域の魅力的な財産になるのではないかと考えました。
野中さん:ムーミン、は母の喫茶店の名前である“夢眠(むーみん)”から。私が短大生の頃にオープンしたんですけど、地域の人が集える場所として朝から夜遅くまでとても賑やかな場所でした。そんな母の大切な屋号に、フィンランド語で空間を意味する“ティラ(tilaa)”を加えて誕生した「ムーミンティラ」。私に読書の楽しさを教えてくれたトーベ・ヤンソンの『ムーミン』シリーズのように、素敵な仲間が集う空間にしていきたいと思っています。
思い出の詰まったお母様の喫茶店をリフォームし、地域の人々が気軽に立ち寄れるフリースペースをオープンさせた野中さん。カフェ利用はもちろん、発表会・ミニコンサート・セミナー・マルシェといったさまざまなイベントも開催されており、まちのコミュニティーホールとして注目を集めています。
「リフォームをしている頃、母の喫茶店に来てくださっていた方々から『また夢眠(むーみん)ばするとね、頑張って』と応援の声をかけていただきました。そのたびに思い出したのはお客様を笑顔で迎える母の姿。吾妻の皆さんにとって心が弾むサードプレイスになれるよう、私自身がワクワクしながら営業していきたいですね」
次回は野中オーナーの“好き”が溢れる、ムーミンティラの施設について紹介していきます。お楽しみに!
取材・執筆/Komori Daigo
長崎県雲仙市吾妻町阿母名9-1 ( Google MAP )